マーベル・ユニバースを神話にした傑作。
突如として Doctor Strange の館 Sanctom Sanctorum に墜落してきた Silver Surfer 。彼は警告する — 死を司るデスが生命で溢れかえった宇宙に均衡を取り戻すため、サノスを死の淵から蘇らせたのだと。だがデスに恋心を抱くサノスは彼女の思惑に反して対等な相手となるべく、持ち主に無限の力を与えるインフィニティ・ガントレットを入手する。やがて狂気のタイタンは愛する女性に振り向いて貰おうと指を打ち鳴らし、全生命体の半数を一瞬にしてかき消してしまう。
宇宙全体が混乱に陥る中、復活した Adam Warlock に率いられた地球のヒーロー達、そして宇宙の各概念を司る面々はサノスに立ち向かおうとするが…。
1970年代に CAPTAIN MARVEL や WARLOCK といったシリーズでマーベルのコズミック界を大いに賑わせたクリエイター Jim Starlin 。本作は Thanos の生みの親でもある彼がそれまで足掛け15年以上に渡って描いてきた物語の集大成であると同時に、マーベル・ユニバース全体にとっても1つの到達点となったイベントであることは間違いない。
アートに関しては当初 George Perez がペンシルを担当していたものの、スケジュール等の都合で途中から降板。本作の前章である SILVER SURFER を手がけていた Ron Lim が代わりに描いたという経緯がある。アーティストの交代劇があったにも関わらず売上が落ちるどころか上昇したという稀有な例としても挙げられる。
以前、別の記事で本作を紹介する際に Starlin の作る世界観が神話的だと表現したことがある。
言うまでもないが、現代を舞台に神話を演出するのは簡単なことではない。あまり神々しすぎては物語が浮世離れして文明社会とミスマッチしてしまうし、かといってキャラクターがいたずらにカジュアルな台詞を吐けば本作独特の緊迫感が薄れてしまう。
Starlin はしかし、物語に現代的精神を注入することで本作を地に足の着いた神話として成立させている。
階段を上るように進行するストーリー、叙景的な語り口、色彩豊かであると同時に重量感のあるアート。
こういった神話めいた要素で外堀を埋めていながら、実際にプロットを前に進めているのは実のところメロドラマ的な心の機微だ。
合理的な選択をしているようで実は狂気に堕ちているサノスの自滅や、トラウマを負ったネビュラの暴走。
一見理知的なように見えて実は曖昧な心が物語をぐらぐらと揺らす展開はむしろ昼メロに近い
すぐそこにある精神を骨とし、神話的世界観を肉とするからこそ、都市の一画で始まり銀河の果てで終結する本作には説得力が生じるのだ。
あの頃とは物事に対する人々の考えが大きく変わってしまった今の時代に再現できるものではない。そういう意味でも本作は唯一無二の名作であるといえよう。
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