今週から始めるこのコラムは、海外のアメコミ系サイト等に掲載された記事の中からいくつか目を引いたものを週単位でまとめ、解説を交えて軽く論じようと試みるもの。
では早速今週のラインナップを見てみよう。
ULTIMATES か AVENGERS か
マーベルの世界観を現代社会に適合する形へ再構成したアルティメット・ユニバース。
その立役者である Mark Millar が Entertainment Weekly のインタビューで「当時のマーベル編集部が AVENGERS のフランチャイズを最早死に体であると認識していたため、 ULTIMATES にその名を使わせて貰えなかった」という主旨の発言をしたことに関して。
この話には続きがあり、当時 AVENGERS タイトルを執筆していた Kurt Busiek が後日ツイッター上で反論。
これによると ULTIMATES に” AVENGERS ”の名が使われなかったのは編集部の意向ではなく自分の要請によるものであり、 ULTIMATE AVENGERS という作品が刊行されることで自分が担当する無印と比較されたくなかったからだと言及。
どちらの発言に関しても真偽のほどは定かでないし、あるいはどちらも正しく Busiek から要請を受けた編集が Millar を説得する際にそういった旨の発言をした可能性もある。
ただ、90年代のマーベルではカートゥーンなどの影響もあり売上では X-MEN フランチャイズが AVENGERS を上回っていたこと、結果的にULTIMATESがこの流れを大きく変え、やがて MCU に多大な影響を与えたことなどは事実のようだ。
歴史を精査する上で両者(の単純なクオリティではなく物語の複雑さなど)を比較する必要はあるのかもしれない。
INJUSTICE こそ DCEU になるべきだった
思うような成果が上がらない DCEU の作品群と、キワモノ枠として始まりながら高い人気を獲得するに至った INJUSTICE シリーズ。ほぼ同時期に開始したこの2つのフランチャイズの対比から、 INJUSTICE こそ DCEU の目指すべき方向だったと記事では論じている。
言いたいことはわかる。 DCEU 作品の多くでメガホンを取るザック・スナイダーが R15 路線でやりたいのは見て取れるし、それが薄味な内容にされて中途半端な印象を受ける作品も少なくない。
ただ同じ世界感を映画にするのとゲームにするのとでは影響力が違う。そのことを考えた時、本当にスーパーマンが人殺しの専制君主になるような作品を作るべきか甚だ疑問に感じる。
加えて両者の明暗を路線の問題に単純化するのは早計だ。
INJUSTICE の爆発的な人気には Tom Taylor によるスピンオフ・コミックの影響が小さくないし、 DCEU 作品はスタッフの交代などに振り回されているフシがある。
いたずらに刺激を増やす”大人向け(笑)”路線を目指す前にやることがあるだろう。
MCU がオリジナル路線なワケ
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の監督ルッソ兄弟に対する THE TELEGRAPH INDIA のインタビューにおいて、ジョー・ルッソが「 MCU が原作コミックの単純なアダプテーションでないのは、コミックの名作はコミックを読めばいいからというマーベル・スタジオの考えに基づいている」という主旨の発言をしたことに関して。
真っ当な意見だとは思うが、原作から離れてオリジナル路線を突き進むことにはかなりのリスクが伴う。原作に対する並大抵でない理解や、高いレベルのライティング技術が準備できて初めて可能であることは、全てのクリエイターが肝に命じておくべきことだろう。
インタビュー全文も中々興味深い。
Avengers, the makers’ story - Telegraph India
・総評(というか反省)
まず、初めてであることや『インフィニティ・ウォー』直前ということもあって、アメコミよりはアメコミ映画の話題にチョイスが偏ってしまったかもしれない。今後はもっとアメコミの記事も取り扱おう。
記事の内容自体に関しても思いの外、甲乙つけられないものが多くて作品に対する自分の理解の浅さを痛感させられた。もっと深く読み込めるようにならなくては。
あと、仮とは謂え論壇時評なんて名前を付けるから文章もなんだか固い感じがするので、次からはもっと柔らかい物言いを心がけたい。
以上、今週のアメコミ論壇時評(仮)でした。
ではまた来週(予定は未定)。