Scalped: Book One(本巻の内容も収録した新装版合本)
あなたの知らない、ネイティブ・アメリカンの世界。
米国中西部にあるインディアン保留区 Prairie Rose — 貧困とアルコール中毒に塗れたこの地へ15年ぶりに帰ってきた Dashiell ”Dash” Bad Horse は、地域を牛耳る Lincoln Red Crow にその腕を買われて警察官として雇われる。だが彼にはある秘密があった…。
現在 MARVEL の大黒柱として活躍している Jason Aaron が、 DC の VERTIGO インプリントでアーティストの R. M. Guera と共に発表した作品。汚職と貧困がはびこるネイティブ・アメリカンの保留区を舞台に、かつて出ていった男が FBI の潜入捜査官として帰還するという内容のサスペンスで、当初は DC のウエスタン系キャラ Scalphunter のリメイクとして始まったものの、徐々にオリジナル要素が増えた結果、完全に独立した作品になったという経緯があるとか。
そんな作品が作られた経緯といい、肝心なクオリティの高さといい、ある意味90年代の VERTIGO 黄金期を彷彿とさせる内容の作品となっている。
ネイティブ・アメリカンの言葉やスラングがごちゃまぜになった会話が交わされるため、ある程度英語を読み慣れていないと話についていけない可能性があるものの、一方で犯罪ドラマとしての内容は一級品。最初の章で既に人間同士の駆け引き、地に足の着いた暴力、キャラクターの内的葛藤といった良い物語を作り上げるのに必要な材料を全て取り揃えている。
Guera による影の濃いアートも本作のネオ・ノワールな雰囲気を際立たせていて非常に良い。
本作の主人公 Dash はいわば賢い鉄砲玉だ。
機転が利き、人生経験も豊富なら、運動神経もずば抜けており拳や銃の使い方もよく心得ている。だが一方で幼少期の経験から彼の心は荒んでおり、故郷や家族に対する愛憎が常に相克している。
そんな彼がその故郷に戻って不安定にならないわけがない。
一見計算高いようで、だがどこかで死を求めているかのように振る舞う。 Red Crow ら地域の重鎮が張り巡らせる権謀術数を次々とかい潜れるほどの彼が、むしろ内からのトラウマによって自壊していく。
この冷たい危うさは、ちょうど深作欣二などの任侠作品なんかに共通するところがあり、ネイティブ・アメリカンの物語とはいえ、むしろ日本人に馴染みのある感覚といえるかもしれない。
Aaron と Guera は何が人を強くし、何が人の弱みになるかだけではなく、この2つがどこでオーバーラップするかまでをも心得ている稀有なクリエイターだ。そして彼らはその曖昧な部分を巧みに操ることで物語にただならぬ緊張感を漂わせている。
今後10冊の単行本に渡って展開する本作において、2人が Dash や Red Crow らにどのような運命を全うさせるのか、しかと見届けていきたい。
Scalped Vol. 1: Indian Country
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