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SWEET TOOTH (DC/VERTIGO, 2011)

はじめに作品紹介はこちらから
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Sweet Tooth Vol. 5: Unnatural Habitats

 事件の原点に迫る第5巻。

 1911年、アラスカ。剥製師の青年James Thackerは伝道師としてこの地に渡ったまま行方不明となった友人で妹の婚約者のLouisを探すため探検隊に志願し、ここを訪れていた。やがて教会に辿り着いた彼ら捜索隊が目にした”神の呪い”とは…。
 一方、現代では鹿の角を持つ少年GusがJepperdとの再会を果たしていた。他の仲間をシェルターに残してアラスカへ向かおうとする彼らだったが、必要な装備を調達するため忍び込んだ施設で新たな事実を知る。

 ポストアポカリプティックでケモナーな物語といえば例のアニメを想像してしまいそうだが、それとは全く関係のない本作SWEET TOOTH。謎の感染症で人類の大半が死に絶えた世界を舞台に、鹿の角を持つ少年とタフなおっさんが旅を続けながらその原因を探す物語の今回は第5巻をご紹介。
 前半は先日DEPT.Hの記事でも紹介したクリエイターMatt Kindtをゲスト・アーティストに迎えて過去の話が、そして後半からは前巻から引き続き旅の途中に遭遇したシェルターとその主人Walterを巡っての騒動が描かれる。ディストピア物でやたらと物資の揃っているシェルターと一見優しそうな住人に心を許してはならないのは定石です、はい。

 さてさて。本巻の率直な感想はといえば「非常に読みやすい」といったところ。特に後半部分はスイスイ読むことができた。 
 その大きな理由としてまず挙げられるのが、このジャンルにありがちな人間関係のゴタゴタが今回はかなり控えめだったということ。シェルター残留組とアラスカ出発組との対立を前回までに済ませて今回は敵がはっきりしているからというのもあるが、それにしても新たに出会った人間とのやり取りまでやたらスムースだったり、各々がかなり機転を利かせたりしていて、物語がスピーディに展開した印象を受けた。既にキャラクター達が熟成しているため当然と言えば当然であるものの、ご都合主義に映らないのは流石だと思う。

 また今回はこれまでの巻よりユーモアが多めだ。大筋だけを俯瞰すると本巻もこれまでの話と負けず劣らずの重い展開だが、随所に笑える箇所が挟まれており、これが清涼税として機能しているため読後感はそれほど陰鬱ではない。
 
 こういった試みは物語の勢いを保つという意味では非常に有り難い一方、登場人物の信頼関係が今や固まって物語が収束に向かっているという終わりの予兆でもある。今後もう1回くらい関係に齟齬が生じるのか、それとも一気に謎の答えが提示するのか。
 どちらにせよ残り1巻の本作が果たしてどのようなエンディングを迎えるのか、しかと見届けたい。


Sweet Tooth: Book Three - Deluxe Edition(本巻の内容も収録した新装版合本)