Dark Nights: Metal: Deluxe Edition
悪夢の侵略にヒーロー達はどう立ち向かう!?
ある日、ゴッサムシティの中心に正体不明の巨大な山が出現する。内部へ踏み込んだ Justice League の面々はそこで長年 Batman を監視してきた極秘部隊 Blackhawk と遭遇する。隊長である Kendra Saunders はかつて山を基地として使用していた冒険者達 — Challengers of the Unknown や、 Carter Hall という名の人物について語ると、さらに山の出現が遥か太古から計画されていた「闇のマルチバース」からの侵略、その始まりだと告げる。そしてその入口が他でもない Batman であると…。今ここに謎の金属を巡り、希望と絶望のかつてない戦いが始まろうとしていた。
これほどまでに恐怖と希望とを同時に感じたコミックは久しく読んだことがない。
最終的にヒーロー達が勝利することがある程度予定調和となっている DC やマーベルの世界観ではイベントで「このヒーローは生き残れるのだろうか」というドキドキはあっても「この世界は生き残れるのだろうか」という危機感を煽られることは極めて稀だ。
しかし本作のクリエイター陣は見事にそれをやってのけた。
本作の大きな魅力の1つは次から次へと押し寄せる悪夢の世界。
初登場時から瞬く間に人気キャラクターとなった「嗤う闇の騎士」をはじめ、侵略者 Barbatos の下僕達はどれも Batman の恐怖を反映しており、その分読者にも強いインパクトを残す。
そんな彼らが JL らヒーロー達を尽く出し抜き、追い詰め、世界を貶しめる。
本作のライターである Scott Snyder は AMERICAN VAMPIRE や WYTCHES といったホラーも多数著していれば、本人も無類のホラー好き。ペンシルを担当した Greg Capullo にしてもかつては SPAWN シリーズに携わっておりNEW52開始当初 BATMAN を描くにはホラー色が強すぎるのではないかとさえ目されていたアーティストだ(その前評が大きく外れたのは言うまでもない)。
そんなホラーを熟知した彼らが手がけているとだけあって、本作は恐怖演出がぎっしりだ。ようやく見出した希望が実は罠だったなんてことが度々あって、息をつく暇がない。 DC ユニバースをまるごと使ったホラーといった風だ。
Jonathan Glapion による色濃くシャープなインクも普通なら相性の悪い筈のスーパーヒーロー物とホラー物をうまい具合に調和させている。
では、これほどまでの恐怖にヒーロー達はどのようにして勝利するのか。それが本作のもう1つの大きな魅力 — 希望だ。
どれほどの窮地に立たされようとも、どれほど状況が絶望的に見えても彼らは諦めようとしない。力ある限り戦い続けようとする。
とりわけ印象的なのが Superman と Wonder Woman の2人。 Batman でさえ意気消沈してしまうような状況でも、この2人だけは毅然とした態度を崩さない。肩を落としかける仲間を鼓舞し、奮い立たせる。読んでいるうち、ページの外にいるこちらまで元気づけられる — これこそまさしくスーパーヒーローのあるべき姿だと再認識させられた。
そして、そのことを念押しするようなラストも印象的だ。
詳しくはネタバレになるのでここには記さないが、ここで Snyder らが導き出したのは、どんな暗闇からも光を見出そうとする希望、そして人々に新たな可能性を信じさせるスーパーヒーローという存在を象徴するものだった。
本作によって、最早全て解明されたと思っていた DC ユニバースは文字通り大きく広がった。今後この世界とこれを守護する彼らスーパーヒーロー達の活躍に胸の高鳴りが抑えられない。
久しく味わえていなかった興奮を思い切り堪能できる一大クロス・オーバーイベントだったといえる。
Dark Days: The Road to Metal(本作の前章)
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