愛する者を失った英雄は恩讐の怪物となって帰還する。
Hulkが地球に帰ってきた。かつて自分を地球から追放し、さらには愛する者まで奪った達へ復讐するために。惑星 Sakaar で得た戦友らと共に宣戦布告した彼に対し、 Iron Man ら地球の「ヒーロー」達は迎撃の用意を進めるが…。
正直に言おう。私は本作の前章である PLANET HULK が好きにはなれなかった。
ありがちな筋なのに変にエモーショナル。アートもどこか中途半端で、 Hulk の強さが描ききれていない。そう感じたからだ。故に本作を手に取るのは躊躇われた。どうせまた煮え切らない話なんだろうなあと渋々ページを開いたことは否定できない。
だが実際に読んでみて、この予想は大きく裏切られた。
面白い、面白いぞ…。
Hulk はやっぱり壊してなんぼです。戦う相手を尽く圧倒するのが一番格好いい。
一般に Hulk は「ジキルとハイド」の現代版と認識されているが、それはあくまで Bruce Banner との関係性においてであって、 Hulk 単体で見た時にこの怪物はどちらかといえば Marvel ユニバースのゴジラみたいな存在だと思っている。
身勝手な繁栄を謳歌してきた人類、そしてその文明を、神的な力で薙ぎ払う時に感じるある種のカタルシス — それは東京を焼き払うゴジラを見て観客が少なからず感じたものであり、また NY をなぎ倒す Hulk に読者が感じるものだ。
にも関わらず。
実のところ Hulk がそこまで爆発してくれる作品というのは極めて少ない。まあ当然だ。コミックは毎月出るのにその度に都市が破壊されるんじゃたまったものではない。だから Hulk には Bruce Banner が存在し、ライターによっては怪物である筈の彼に知能や倫理感を与えようとする。
本作の Hulk も理知的ではある。しかし、その理性を上回る憤怒が彼を支配しているため、暴力に全く躊躇いがない。怪物的な暴力でヒーロー達を叩きのめし、 NY の街を徹底的に破壊する。
その様子を見て読者は罪悪感を抱きながら、だが気持ちよさを感じるだろう。
そう、これこそが Hulk なんだ。だから彼は INCREDIBLE (凄まじい)のだと。
これを可能としているのは John Romita Jr. による迫力のペンシルだ。彼のゴツゴツしたアートは戦闘描写、こと肉弾戦に関して言えば他より頭一つ飛び抜けている。拳には力が宿り、肉体と肉体が衝突するコマでは空気の震えが伝わってくる。勢いのある線や濃淡はっきりした陰影を効果的に使う彼の絵には、他では見ることのできない「重さ」が存在するのだ。
また、破壊の後という点についても本作は一見に値する。戦闘の勝敗までを描いて残りをなあなあにするイベントはよくあるが、本作はその限りではなく、総括もしっかりと提示してくれている。個人的に Hulk は知的でない方が好みな私も、これなら理知的な彼もアリだなと頷けるフォローアップだった。
本作はHulkの恐ろしさと強さを見せつけてくれた逸品であったといえる。
World War Hulk #1 (of 5)(Kindle)
World War Hulk #2 (of 5)(Kindle)
World War Hulk #3 (of 5)(Kindle)
World War Hulk #4 (of 5)(Kindle)
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