シリーズの核心に迫る1冊。
自らの出自を知り、その不安を押し殺そうとするかのように退廃的な日々を送る Hellboy はある日、過去に交流のあったとある団体から手紙を受け取り英国へ赴く。そこで再会したメンバーから、近年過去にない速さで急増し土地を脅かす巨人達を狩るべく Wild Hunt という催しが開かれることを聞かされた彼はそれに同行することに。だが、参加する狩人達の仲にはHellboyのことを快く思わない者も少なからずおり……。一方その頃、過去に対峙した際の恨みからHellboyに並大抵ならぬ憎しみを抱く Gruagach は各地から同士を集め、最悪の魔女王を復活させようとしていた。
最初から読み直し始めた Hellboy の冒険も遂に9冊目。このままいくと近く再び HELLBOY IN HELL に辿り着くことになるのだけれど再レビューしようかどうか迷っている最中でございます。
さて、今回は新展開であると同時にこれまでのシリーズで描かれてきた伏線が交わり実を結ぶちょっとしたターニング・ポイント的な巻。これまで Hellboy の出自に関してなんとなくぼかされていた部分や、前回の DARKNESS CALLS ではやや説明不足に感じた Gruagach の事情など、バックグラウンド情報が筋道立てて説明されたのが個人的にはありがたかった。
引き続きクリエイター陣はライターに Mike Mignola 、ペンシルに Duncan Fegredo 、カラーに Dave Stewart 、そしてレターに Clem Robins という構成。
前々巻辺りから本シリーズに Robins に関して、これまでも HELLBOY や B.P.R.D. などのレタリングというのはやや独特の感があったが、彼によって更に一皮むけた印象がある。
ぱっと見でわかりやすい例として挙げられるのがフキダシ内のフォント変更。それまで叫び声やオノマトペはともかく地の文や平易なセリフは他のコミック作品と大差なかったのだが、彼がレタリングを担当するようになってからはやや太く角の取れたものとなっている。私はレタリングに関しちゃ門外漢なのでこのフォントが何とかは言い当てられないものの、この手書き感の強いアナログなフォントは他の効果音と相性が良く、本作のフォークロアな雰囲気はより一層濃厚になっている。
無論、オノマトペの配置などにも工夫が凝らされており、 Hellboy の周囲で小さな音があちこちから聞こえてくるシーンなどでは、ちょっとした映像作品で言うところの5.1サラウンドシステムのような効果が実現されている。 Robins が本シリーズのみならず他の Mignolaverse 作品でもレタリングを担当しているのは納得の実力と言える。
Hellboy を中心に渦巻く災厄の規模が一気に膨らんだ本巻。それはストーリーのみならず、アート陣のクリエイティビティが結集した賜物であるということを痛感した1冊だった。