”コミック”という表現について考え抜いた必読作。
Understanding Comics: The Invisible Art UNDERSTANDING COMICS SCHOOL & [ Scott McCloud ]
存在は知っていても読んだことのない人が案外多いかもしれない。図書館にアメコミがないか探してみた経験のある人は巡り合ったことがあるだろう。かくいう私も学生時代に図書室で遭遇し「わーい、アメコミだー」と手に取ったものの、あまりにテクニカルな内容だったため、当時 MARVEL や DC のスーパーヒーロー物ばかり読んでいた自分には難しすぎてすぐ棚に戻した記憶がある。ちなみにこれと同じパターンで MAUS も未だちゃんと読んでいないのでそのうち入手したいところ。
ものがものなのであらすじを記す必要はないだろう。強いて言うなら作者である Scott McCloud がコミックという表現技法についてその定義から可能性までひたすら分析するという内容。
Will Eisner の COMICS AND SEQUENTIAL ART 、 Alan Moore の WRITING FOR COMICS と共にライター・アーティスト問わずクリエイターであれば必ず読んでおくべき指南書としてしばしば挙げられる。私も様々なコミックに手を出してはこうして読んだ作品を記事にするようになってからようやくこの度ちゃんと腰を据えて目を通してみたが、いや改めて読んでみると目から鱗。
本作がよくある漫画やコミックの指南書と大きく異るところは、ちゃんと”コミック”について解説を行っているという点だ。
世に多くある漫画テクニックの指南書や教本というのは往々にして上手に絵を描く方法や、面白いストーリーをひねり出す方法について別個に言及しており、題名通り「コミックの作り方」について解説している本というのはほとんど存在しない。つまり、多くの書は各パーツの作り方については語っていても、その組み合わせ方についてはほとんど手付かずなのだ。その点、本作はコミックを「 JUXTAPOSED PICTORIAL AND OTHER IMAGES IN DELIBERATE SEQUENCE (意図的な順序で並列された絵及びその他画像)」と定義しつつ、単にきれいな絵と面白いストーリーを合体させただけのものではないとして密に解説している。
コミックや小説がやれアニメ化されやれ実写化される度、あたかもそれを祝福するべきことであるかのような風潮があるのは別に今始まったことではないが、正直なところ私はこういった傾向にむしろ懐疑的だ。
コミックにはコミックでしか実現できない表現というものがあり、そう簡単にアニメや実写に変換されるべきではない。自らの作品をコミックとして発表するのであれば、そこには単に「絵が上手にかけるから」という以上にこの媒体を使わなければならなかった表現上の理由があってしかるべきであり、それが映像作品のネタとして扱われるような事態はおろか、しまいに「アニメのほうが面白い」などと言われるのは愚の骨頂ではないだろうか。
これはアメリカのコミックのみならず日本の漫画にも言えることだが、こういったコミック業界のネタ工場化が盛んになってしまった原因の一端に、私はあまりに多くのクリエイターが”キャラクター”と”ストーリー”という2つの要素にばかり注力してコミックのポテンシャルを生かしきれていないところにあると思う。そこに気を使わなさ過ぎた果てに映像家の鉱脈扱いされる現状があるのだ。これでは今以上の発展は望めないどころか、緩やかに衰退していくばかりである。そのことは昨今の市場縮小を見ても明らかだろう。
こうした事態を打破するためにクリエイター達は今一度、何故コミックという表現を選択しているのかを自らに問う必要がある。そして本作は間違いなくその一助となる。