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X-MEN: GOD LOVES, MAN KILLS (MARVEL, 1982)

 文句なしの名作。


Marvel Graphic Novel #5: X-Men: God Loves, Man Kills

 元軍人で現在は宣教師としてミュータントに対して過激な発言を繰り返す William Stryker 。彼とテレビ討論で意見を交わすためS cott Summers a.k.a Cyclops 、そして Ororo Munroe a.k.a Storm を伴い出かけた Charles Xavier だったが、その帰りがけに何者かからの襲撃を受ける。彼らが死亡したとの一報を受けてすぐさま馳せ参じた Wolverine ら他の X-men は、しかし3人の遺体が偽物であると見抜くが、その頃、学園に残っていた Kitty Pride と Ilyana Rasputin は学園の敷地内に仕掛けられていた不審な装置を見つけて……。

 言わずと知れた X-MEN の名作中の名作。実写映画版2の原案として使われたということもあり、あちこちで名前が挙げられる作品である。
 私自身、存在こそ知っていたものの長らく読んでいなかったところを最近ようやく入手する機会に恵まれて読んでみた口なのであまり大層なことは言えないものの、本作は X-MEN の魅力が凝縮された傑作であると言っても差し支えないかと思われる。少なくとも人種差別という実際の社会問題を背景に背負っている作品としてのシリーズの基盤となるテーマはここに全て詰まっているだろう。また、今後 X-MEN を読み始めたいような人がいれば、ストーリーの短さも含めてこれまた本作はうってつけかと思われる。

 ライターは X-MEN の名物ライター Chris Claremont 。 X-Men の生みの親は Stan Lee と Jack Kirby かもしれないが、創刊当初は Fantastic Four のパチモンでしかなかった彼らを現在のバラエティ豊かなチームに仕立て上げた育ての親はまず間違いなく彼だ(現在 Marvel から創作者として軟禁状態にされているという噂も聞くので、もしそれが事実なら彼の新作が読めないのは残念でならない)。
 アーティストは油彩画を思わせるリアルな作画が非常に魅力的な描き手で、本作や ASTRO CITY などを代表作とする Brent Anderson 。元々は Neal Adams がアートを打診されたという話だが、やや尖った印象を受ける Adams のアートよりも結果的に Anderson が担当して良かったと個人的には思わないでもない。

  X-Men の活躍が今読んでも色褪せないのも驚きだったが、それ以上に意外だったのはむしろ名も無きモブの反応だ。
  X-MEN の世界を見回すと、映画にしろカートゥーンにしろ(無論コミックでも)一見ミュータントが四面楚歌の状態にあるような雰囲気だが、こと本作に関して言えばそんなことは決してなく。ミュータントに対して過激な発言をする Stryker に辟易するような一般人の姿も数多く見られ、彼の思想に賛同しているのは偏ったほんの一握りだけのよう — そんな Stryker と彼の支持者との姿は、昨年どこかの大国で大統領に選ばれた男とその支持者との姿にどこかダブルものがある。

 時として私達は声の大きい相手に臆して自らの意思を貫き通せないことがある。しかし、本当に正しいと思うのなら勇気を出して抗うべきだ。
 きっと味方はいる。