分かれることのできない2人で1人。そんな2人が分かれた先に待ち受けるものとは — 。
Incredible Hulk (2011-2012) #1
とある人物からの助力により遂に Bruce Banner を自分から切り離すことに成功した Hulk は地底深くで地底人の集団に混じって一見平穏な日々を送っていた。しかし、それも長くは続かないという彼の確証を裏付けるのかようにある日、世界中でマッド・サイエンティストの暗殺任務を遂行する隠密部隊が彼のもとを強襲する。部隊を率いる Amanda Von Doom (鉄仮面と親戚ではないとかなんとか)に拠ると、彼女らが次に標的として定めたのは Hulk と分離して以降、正気を失って暴走的な実験を繰り返すようになった Banner であるという……。
現在 Marvel にこの人ありと謳われるライター Jason Aaron が2011年から1年ちょいかけて手がけた INCREDIBLE HULK のラン。今回ここで紹介するのはその前半部分。時期で言うと赤い Hulk に赤い She-Hulk 、終いには青い Abomination なんてのまで出現してわやくちゃになっていたのが一段落した頃。 Marvel 全体で言えば FEAR ITSELF 前後といったところか。まあ、別にそのあたりは別に知らなくとも普通に読めるので問題はないかと。
気が付けば現在に至るまで Aaron の手がけた作品にほとんど手を出したことのない私。唯一かもしれない本作を刊行当時に買ったのも Aaron よりむしろペンシルに Marc Silvestri が参加していたからだったり。
CYBER FORCE など Image は Top Cow レーベルを主な活躍の場とする彼はシャープな筆使いでガッシリとした筋肉を描くのが得意なアーティスト。最近ではすっかりライターとしての作品発表ばかりだったので久々に彼のアートが見られる、それも Hulk をやると聞けば手に入れないわけにはいかず。なのに彼が急病を理由に#3で早くも降板してしまったのは非常に残念だった。
そうはいったものの、 Aaron のライティングもさることながら Silvestri の後を引き継いでペンシルを担当した Whilce Portacio による絵も中々見応えがあったので結果的に満足度は高い位置に留まった。やっぱ Hulk は鎧兜を身に着けて剣を腰に挿しているより、拳で敵を殴りまくっていた方が絵になります。
改めて本作を読んでみると、 Hulk と狂気に陥った Banner の攻防を中心に描きつつ、適度にそもそも彼を Bruce と分離させた人物の謎であるとか Banner に関するサイコロジカルな要素などを盛り込んだりする Aaron の卓越したバランス感覚が伺えた。マッド・サイエンティストを専門に扱う特殊部隊というのも面白い発想だと思う。
強いて難を述べるなら個人的には Hulk は実写版のようなほとんど知恵のない状態の方が好きなのであまりぺらぺら喋る彼は好みじゃないものの、 Frankenstein の怪物みたいな存在として Hulk を想定するならこの話も十分にありかと納得できなくもない。
Hulk を失った Banner が正気を失ったように、 Banner を駆逐してしまった Hulk にもそのうち何か変化が訪れるのか。刊行時は本巻に収録されている内容だけで一旦落としてしまったものの、今はこの後の展開も気になってきたかも。
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