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BATMAN: THE RETURN OF BRUCE WAYNE (DC, 2010, #1-6)

  Darkseid は Batman を生ける最終兵器にした。 — 彼がこの世で最高の武器だとは知らずに。


邦訳版合本(Amazon): バットマン:ブルース・ウェインの帰還

  Final Crisis 事件で Darkseid と刺し違え命を落としたと思われてた Bruce Wayne a.k.a Batman 。だが彼は死んでいなかった。 Darkseid の攻撃により Omega Radiation を体内に蓄積した彼はその効果で様々な時代を跳躍しながら徐々に現代へ近づいていく。一方、その現代では彼が生存している証拠を掴んだ元相棒 Tim Drake a.k.a Red Robin らヒーロー達が、だがある事実を知ると、彼の帰還を阻止しなければならなくなる……。

 奇妙奇天烈な展開が次から次へと繰り広げられる Grant Morrison の Batman サーガでも一際異彩を放つミニシリーズ。比較的シンプルな幕開けから「何かよくわかんないけどやばいことになってる」クライマックスへ至る急転直下な流れは彼らしいと言えば彼らしい。時系列的には BATMAN AND ROBIN の『 DARKEST KNIGHT 』編からラストの『 BATMAN AND ROBIN MUST DIE 』編(近日中に記事をアップする予定)と同時並行といったところ。
 アートは固定しておらず Chris Spouse から Lee Garbett までほぼ毎号別のクリエイター陣を採用している。もちろんこれまで BATMAN 誌や B&R 誌でもお馴染みの Yanick Paquette や Andy Kubert らも表紙なり中身なりへアートを提供。
 魔女狩り時代における Bruce の活躍を手がける Frazer Irving のインテリアなんかはちょっと SEVEN SOLDIERS OF VICTORY の KLARION パートとかを思い出すな。やっぱり暗闇とか雨の中での彼の絵は映える。

 今回のミニシリーズで改めて Bruce Wayne の能力値の高さが証明されたんで、これを機に少々人間としての Batman というのに対する私の持論を述べておこう。
  Batman が何の力も備えていないことを当初嘲笑っていた敵味方がいざ動いてみると自分よりもはるかに活躍してぎゃふんと言わせられるよう展開はありがちなものとしてコミック内外あちこちで見かけられるが、よくよく考えてみるとこれはそんなに不思議な話じゃない。
 だって6の力しか引き出せない腕を3本持っている輩より、両方共10の力まで引き出せる2本腕の者が勝るのは当たり前と言えば当たり前。
 往々にして Batman が特殊能力を有していないことは彼の欠点として見られがちだが、鍛える必要のある部分が少なくなることを考えれば(もちろん Bruce Wayne の並大抵でないエネルギーとモチベーションを前提とした上で)むしろそれは大きなアドバンテージである。
  Superman や Wonder Woman などトップクラスの実力を誇る超人達はともかく、後天的に特殊能力を身に付けた者達の大半より Batman が秀でているのは何ら不思議なことではないと私などは思う。

 まあ、そんな不毛になりそうな議論はさておき。ようやく Morrison サーガの時系列ごちゃごちゃな部分がある程度片付きほっとしたところで今回は筆を置くことにしよう。


原書版合本(Amazon): Batman: The Return of Bruce Wayne