VISUAL BULLETS

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DETECTIVE COMICS: RITE OF PASSAGE (DC, 1990, #618 - 621)

 闇の騎士と横に並び立つ者。その呪いとは — 。


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 紆余曲折を経て Batman の正体を知った Tim Drake 。現在は Batcave 内でバックアップに務める彼だが、いつの日か Robin の座を継承することを目指し日々訓練を積んでいる。だがそんな彼のもとへある日、実業家として世界各地を巡っていた両親の乗った飛行機が行方不明になったことを知らせる一報が届く。警察や Batman の懸命な捜索活動も空しく、刻一刻と状況は悪くなっていく。
 地団駄を踏む以外、何もできない Tim 。 Bruce Wayne が両親を失ったように。 Jason Todd が命を落としたように。自分も大切な何かを失わずしてこの世界に足を踏み入れることはできないのか。 
  Robin になる — それに伴う呪いが如き痛みを知り、少年は思い悩む。

 ぱっと思いつく名作らしい名作もなければビッグ2の片棒を担ぐ Marvel がひどいことになっていた時期なので、やもすると見落とされがちな90年代。まあ確かに今回紹介するこの作品にしても、2000年代以降に登場するコミックよりは少々アートに躍動感が足りないことは否めないし、3代目 Robin 視点ならともかく Batman のストーリーとしては若干インパクトが弱い。 DARK KNIGHT RETURNS などでスーパーヒーローという存在への疑念が提示されてから、 AUTHORITY や ULTIMATES で彼らが”現実的”な存在に脱皮するまでの過渡期というか蛹みたいな時なので多少好みは分かれるかも。

 私は結構好きですよ。こういう単純な勧善懲悪でもなければ最近のように1話1話がびっくり箱のような展開になってはいない、いぶし銀なストーリー。
 ライターの Alan Grant は元々イギリスで 2000A.D. を主な活躍の場としていた方で、80年代の終わりから2000年代の前半あたりまで DC で Batman 界隈を数多く手がけていた。現在は再びブリコミに戻り、 2000A.D. で作品を発表する他、自身の出版社を立ち上げるなど精力的な創作活動を続けている模様。言われてみれば締めに皮肉を利かせる手法はアメコミではあまり見られない FUTURE SHOCKS 的な作りと言えるかもしれない。
 今回の話では Batman が Tim の両親を拐かしたウィッチドクターを探し求めハイチへ発つ一方、 Tim は Gotham で MoneySpider を名乗るハッカーを追う。こう記してみるだけでも決して見栄えの良い話でないことはわかると思うけど、少なくともつまらないと感じることは一切なかった。 Norm Breyfogle のアートについてもデジタル作画が導入される前なのでインクの使い方などは中々見応えがある。
 
 やもするとイベントに巻き込まれたりイベントを起こしたりで派手な展開を好む傾向のある最近のコミック。ヴィラン大集合や世界滅亡の危機というのも決して悪くはないものの、そればかりを描いていては「 Batman は大きな事件しか扱わない」と勘違いする読者さんも出てきてしまう。こういった中堅レベルの事件をしっかり描くことも重要だろう。


本記事で紹介する内容含む原書合本版(Amazon)(上に掲載したものと同じ内容): 【Robin Vol. 1: Reborn