不可能も可能にしてみせる。たとえどんな手を使ってでも。
分冊キンドル版(Amazon): The Punisher (2004-2008) #13 (The Punisher (2004-2009))
NY の裏通りでマフィアを血祭りに上げる Frank Castle a.k.a Punisher にある日、 S.H.I.E.L.D. の Nick Fury が依頼を持ちかける。それはロシア軍の基地に捕らわれている少女 Galina を救出し、化学者であった父親の手でその体内へ注射された殺人ウイルスを回収するというものであった。デルタ・フォースの隊員と共にロシアへ潜入する Frank 。だが作戦の背後に控える米軍将校達の間には何やらきな臭い動きが……。
戦争オタクである Garth Ennis ならでは。舞台が舞台だけに冷戦を引きずったネタである一方、911後の米国と中東との関係なども巧みに絡んでいて、読んだ後に池上彰の解説が欲しくなる秀逸なストーリーとなっている。
さて、今回は子供がいる傍で Frank がロシア軍をバッタバッタとなぎ倒すという内容だが、個人的に正しいバイオレンスの方法というか、読む者へ嫌悪感を与えない暴力コミックの作り方みたいなものを垣間見ることができた。
まず1つ目の特徴として、主人公に倫理が存在すること。今話の Punisher は敵に対してこそ掴んだ足首を振り回し相手を机に叩きつけて殺すような残虐ッぷりだが、他方 Galina の前では極力そういった行為を控えたり、彼女が銃を手にしようとすればすぐに取り上げて諭したりと流石は元子持ちといった態度で接している。物語のインパクトという意味では彼女が銃で兵隊を殺したり、逆に殺されたりといった展開もあり得ただろう。しかし、それを許す Punisher というのを読者に正当化できるかといえば答えは否だ。
もう1つの特徴として、敵がしっかり生きているということ。敵味方がはっきりしているスーパーヒーロー系コミックによくありがちなのが敵が大変間抜けでテンプレ的であること(実際、 Marvel の実写映画はよくこのことと音楽のこととを問題点として挙げられている)。確かに世界征服を企む悪の科学者をリアルに描けというのも無茶な話かもしれないし、 Punisher に登場する敵役にそういった類はほぼいないものの、魅力的な主人公と同等かそれ以上に魅力的な悪役というのは作るのが難しいことに変わりはない。悪役が主人公に勝利してしまうという本末転倒な展開を生み出す可能性を作り出してしまうからだ。
そういう意味で Zakharov 将軍のようなキレ者を出しておきつつ、だが彼をあくまで現場から遠く離れた作戦本部に留めることで Frank と直接対峙させないというのは絶妙な配置と言える。主人公と同程度の魅力を備える悪役を出すことにより、一方がもう片方を虐めているような勧善懲悪な印象を受けることを避けられると同時、 Punisher がとんでもないことを仕出かしてもやり過ぎな印象は受け難い。
Ennis は間違いなくバイオレンスの匠だ。けれどそれは単にグロテスクな行為が上手という意味ではなく、キャラクターの人格や配置など作品全体を監督するという意味での話。
バイオレンス物を手がけてみたいクリエイターは必見かと。
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本記事で紹介した内容含む原書合本版(Amazon): Punisher Max: The Complete Collection Vol. 2