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MARVEL 1985 (Marvel, 2008, #1-6)

 猛省。
(今回は前半通常の感想文、後半は激しくネタバレを含んだ内容となりますので要注意)


原書合本版(Amazon): Marvel 1985

 時は SECRET WARS がファン達を賑わせていた1985年。両親の離婚など家庭の事情により憂鬱な日々を送る12歳の少年 Toby Goodman はコミックの世界を唯一の救いとしていた。そんなある日、父親の幼馴染が昔住んでいたという屋敷を訪れた彼はその邸内に Red Skull そっくりの人物を見つける。数日後、街で Vulture によく似た怪人物の目撃情報が相次いでいることを知り、再び Wyncham 邸へやって来た Toby が目にしたのは Doom や Mole Man といった Marvel コミックのヴィラン達だった!

 拝啓、 Mark Millar 様。
 私が馬鹿でした。これまでの数々の非礼をお許し下さい。
 ……と、全力で土下座したくなるレベルの面白さ。これまで Mark Millar のライティングには苦手意識の拭えなかったものの、それも MARVEL KNIGHTS SPIDER-MAN でやや薄れ、今回の作品で完全にひっくり返った次第。
 いや、すごいわこれ。

 1985年の読者世界を舞台に Marvel ユニバースから侵攻してきたヴィラン達に立ち向かう少年の冒険を描く本作。ファン心理を丁寧に捉えたダイアログと、残虐な本性を曝け出すヴィラン達の描写が際立っており、どこか懐かしいジュブナイル・ホラーとなっている。 Stephen King の小説なんかが好きな人は絶対気に入るかと。

 どこか郷愁を誘う Tommy Lee Edwards の絵も魅力的。太めの線画と濃淡のはっきりしたインクが特徴的な彼のアートは明る過ぎず暗過ぎずな1985年という時代にピッタリ。また、森の中で Toby の持つ懐中電灯に照らし出される Hulk が登場するページなどは、1人の読者がフィクションの中の存在と出会うことの衝撃を克明に描き出している。

ストーリーもアートも文句なしの傑作。
完璧に見直しました、 Mark Millar 。
今じゃすっかり虜です。


キンドル分冊版(Amazon): Marvel 1985 #1 (of 6)


キンドル分冊版(Amazon): Marvel 1985 #2 (of 6)


キンドル分冊版(Amazon): Marvel 1985 #3 (of 6)


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キンドル分冊版(Amazon): Marvel 1985 #5 (of 6)


キンドル分冊版(Amazon): Marvel 1985 #6 (of 6)

 ……はーい、こっから色んな作品のネタバレ入るよー。
 単発のミニシリーズとして発表された本作が、実は Millar が仕掛けた大きなクロス・オーバーの一部であると同時に特異点であるということは意外と知られていない。
 まずは世界ごとにちょっと見てみると — 。

EARTH-1219(MARVEL 1985の世界):
  Toby の世界における最初のミュータントであり、ヴィランを Marvel ユニバースより呼び寄せて事件を引き起こした Clyde Wyncham 。脳に障害を負う彼は最終的に Reed Richards らの手により Marvel ユニバース(Earth-616)で保護されることになり、現在も Area-87 という場所で寝ている。
 一方、大人になり Marvel のライターとなった Toby は『1985』というコミックを発表するが……。

EARTH-807128(OLD MAN LOGANの世界):
 ヴィラン達が一致団結してヒーロー達に勝利してしまったこの世界では Wyncham も解放され、一説によると OML に1ページだけ登場する Doom は Victor ではなく彼だとか( Wiki とか探ってみたけどはっきりした証拠は発見できなかったので断言できないけど)。

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(Wyncham?)

  OLD MAN LOGAN のストーリー後、生き残ったヒーロー達が世界を取り戻そうとする横で能力を高め、時空を操ることさえ可能になった彼は新たに Marquis of Death を名乗り並行世界へ旅立つ。やがて Earth-616 にやって来た彼は若き日の Victor Von Doom と出会い彼を教育。
 これより後のことに関しちゃ私は Millar の FANTASTIC FOUR のランも読んでいなければ、調べた結果かなり複雑なことになるようなのでなるのでここでは割愛。

 さて、807128の方は一旦置いておくとして、問題は1219で Toby が発表した『1985』という作品。この作品、実は Millar の別の作品にも登場している。

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(KICK-ASS #4より、 Johnny Genovese a.k.a Red Mist が初めて登場するシーン。)

 そう、 MARVEL 1985 の世界と KICK-ASS の世界は同じものなのだ。

 かなり以前の記事でも記した通り、 KICK-ASS の世界は WANTED の世界でヴィラン達がヒーロー達を撲滅してしまった Millarverse と呼ばれる世界観の一部だ。ちなみにヴィラン達が一斉蜂起したのは1986年という設定である。
 それが MARVEL 1985 と同一世界だとすると……?

 Clyde Wyncham — 間違いなく覚えておくべき名前だろう。