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鹿の角が生えた少年の奇妙な旅路。第2部開始。
原書版のカバー画像がなかったので同じ絵のドイツ語版(?)合本(原書版は下に掲載)(Amazon): Sweet Tooth 04. Bedrohte Arten
Abbot の管理する施設から脱走することに成功し、 Jepperd 達とも合流を果たした Gus らハイブリッドの子供達。一行は Gus の誕生の謎に対する答えがあると思われる Alaska を目指し北へ進むが、 Gus と Jepperd を始めとして互いのギクシャクした関係が修復するのは程遠く。
そんなある日、 Lucy ら女性陣3人は気晴らしに散歩へ出かけた林の中で Walter Fish なる男と出会う。彼は3人を自分の住むダム施設に案内する……。
第2部開始。と同時に面白さが一段引き上がったか。これまでも十分レベルの高い作品だったものの、今まではキャラクターが熟しきってなかったり、映画の『28日後…』などといったディストピア物を踏襲する展開だったりという部分がないでもなかった。本巻はそこのところ、キャラクターは前3巻かけてある程度確立されているし、物語の先も見渡しにくい段階に入ったといえる。
メインのクリエイターは今まで通り Jeff Lemire だが、本巻では散歩に出かけた3人の過去のエピソードを描くのに、 Lucy には Nate Powell 、 Becky には Emi Lenox 、 Wendy には Matt Kindt という3人のゲストアーティストが起用されている。3人とも物語の雰囲気を踏襲しつつ、しっかり自分の味を出している。私としては Emi Lenox は Emi Town などウェブ上では何度か絵を見かけたことはあったものの紙面上でアートを確認するのは今回が初めてだったので結構嬉しい。この人はおそらく今後活躍するものと思われるので追っといて損はないかと。
他のアーティストに関しても、 Nate Powell なんかは名前こそ聞いたことがあったものの、 Top Shelf など彼が主な活躍の場とする純文学系コミック社の作品にはあまり手を出したことのない私は(それこそ Lemire の ESSEX COUNTY くらいか)今回が初見。たった数ページなのでぱっと見た感想しか言えないが、この人の描くオッサンは目つきがいいとだけ。 Matt Kindt のアートは DEPT.H などで見慣れているし彼について語る機会は DIVINITY シリーズ含めて他にいくつもあるのでここでは割愛することとする。悪しからず。
上でも述べたが本巻に入って物語が先の見通しにくいステージに上がったことで、テンプレ的な伏線と思われるシーンが本当に伏線なのか、それとも読者のそんな予想を見越したフェイントなのかが非常にわかりにくくなっている。本巻で Lemire はこのことを巧みに利用し、タイミングよくヒントを出すことで読者の疑心暗鬼を揺さぶってくる。
そのことを体現するような存在が本巻で初登場する Walter Fish だ。一見足が不自由で人畜無害そうな彼だが、こういうディストピア物ではそんな輩にこそ裏があるもの。 Fish Aもその例に漏れず、一向に化けの皮が剥がれないため「もしかすると本当に善人…?」と思い始めたところでパッと彼の正体に関するヒントが挿入される。
以前の記事で本作はゆっくり読むことがおすすめだと記したが訂正 — 今ははやく続きが読みたくて堪らない。
原書合本版(Amazon): Sweet Tooth Vol. 4: Endangered Species