VISUAL BULLETS

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ALEX + ADA (Image, 2013-15)

 最近ちょっと流行りの人工知能との恋愛物。


キンドル分冊版(Amazon): Alex + Ada #1

 近未来。ロボティクスと人工知能技術の発達によりアンドロイドが社会に普及する一方、その暴走を危険視する人々の危惧は日を追うごとに強まっていた。
 理由も聞かされぬまま婚約者に逃げられて半年、うだつの上がらぬ日々を送っていたAlexを見兼ねた彼の祖母は、誕生日プレゼントとして Tanaka 社製の最新型 X5 シリーズのアンドロイドを贈る。彼女を Ada と名付けた Alex は当初こそ興味を示さなかったものの、徐々に彼女に惹かれるようになる。やがて Ada の反応をもっと人間らしくできないかと思い始める……。

 正直装丁もちょっとごついし(合本はハードカバーより TPB 派なんで)入手するかどうか迷ったものの、手に入れて大正解。久々に強く印象に残る作品と出会うことができた。こういう出会いがあるからこの世界やめられない。

 原案とアートは Jonathan Luna 。弟の Joshua Luna と一緒に GIRLS や THE SWORD といったオリジナル物、版権物で言えば Marvel で SPIDER-WOMAN なんかを制作していたクリエイターだが少し前にタッグを一時(?)解消。別の仕事で知り合った Sarah Vaughn をメイン・ライターに迎えて制作したのが本作。
 他のレビューなどで指摘されている通り、アート的にもストーリー的にも比較的フラットな印象は確かに受けるものの、そのどこか静やかなアトモスフィアが逆に本作のリアリティを引き出していると同時に Alex と Ada それぞれの内的な葛藤を浮かび上がらせている。プラス要素ではあっても決してマイナス要素ではないと個人的には思うが。
 また、 Ada を始めとした感情を解放したアンドロイド達が笑ったり泣いたりすることに対し、当初はあまり人間的すぎるんじゃなかろかと思ったけれど、あらためて現在私達の周りにあるSiriなどのことを考えれば彼らが人間と同じ意味及び純度における”感情”を確保できるのもそう遠くないかもしれないか。

 昨年あたりから活発になってきた人工知能に関する議論が活発になってきて、少し前までの私もなんとなくそういった技術に顔をしかめていた。
 しかし落ち着いて考えてみると機械が発達したからといって、そうしたら必ず人間が滅ぶのかと問われれば別にそういうわけでもなく。共存する可能性もあればシカトされる可能性も十分ありうる中、敵対する可能性ばかりに意識がいってしまうのは、もちろん生物として本能的な部分もあるのだろうけれど、それ以上にハリウッド映画に埋め込まれたイメージというのもあるのではないか知らんと思ったりもする。
 
 本作においてアンドロイド達は別に人類に対して敵対心を抱いていない。相手を敵視するのは人間ばかりで、衝突の火種もほとんど人間が原因だ。
 いつか人工知能が暴走して人類が滅ぼされないように対策を練るのも確かに重要だが、それ以上にいつか人工知能が人間という制約から解放された時、人類が彼らに愚かしい存在と見られないよう今何をすべきかを考える方が重要じゃないだろうか。

 取り敢えず私は『ちょびっツ』とやらに手を出してみることから始めてみようと思う。


シリーズ全部を収めた原書ハードカバー版(Amazon): Alex + Ada: The Complete Collection


原書ソフトカバー版合本(まずはどんなもんかと気になる方はこちらでもありかと)(Amazon): Alex + Ada 1