VISUAL BULLETS

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THE UNWRITTEN VOL.1: TOMMY TAYLOR AND THE BOGUS IDENTITY (DC/Vertigo, 2009)

 以前から面白い面白いと方々で耳にはしていたものの、新しいシリーズを追いかけるふん切りがつかず、最近になってようやく重い腰を上げて読み始めた次第。
 ああ、これ確かに面白い。


本記事で紹介した合本の内容を含む新装版原書合本(Amazon): The Unwritten: The Deluxe Edition Book One

 Tommy Taylorという少年を主人公にしたファンタジー児童小説で大ヒットを飛ばしながら10年以上前に謎の失踪を遂げた作家Wilson Taylor — そんな彼の息子であると同時に主人公のモデルでもある青年Tom Taylorは父親の印税とファン・サービスで生計を立てつつ、しかし誰も自分を自分として見てくれないことに思い悩む。
 ところがそんなTomの前にある日、彼がWilson Taylorの実の息子ではないと指摘する女性が現れる。瞬く間に噂は広がり、窮地に立たされた彼は自らの出自を確かめることを決意するが、彼をつけ狙う存在はすぐ後ろに迫っていた……。

 話の立たせ方といい、絶妙な”不思議”の匙加減といい、いかにもVertigoレーベルらしい作品と言おうか。Imageでやるものとはまた違う。間違いなくSANDMANのダークさやFABLESの楽しさといった要素を継いでいるファンタジー。  
 Karen Bergerの去った後のVertigoは良い作品出していても軒並み鳴かず飛ばずでもう這々の体かと思っていたら全然そんなことはありませんでした。こういう作品を出し続けている限りこのレーベルはずっと続いていくのだと認識を新たに。

 ライターのMike Careyといえば主にMarvelでX-men界隈を中心としたスーパーヒーロー物をやりつつ、非スーパーヒーロー物でもLUCIFERなど様々な作品を世に送り出しているやり手のライター……という話は耳にしていたものの、実は私もこれまであまり彼の作品は読んだことがなく。まともに読んでいるのは彼のコミックではなく小説のTHE GIRL WITH ALL THE GIFTSで、それさえ彼の作品と知らず手に取った(だって”Mike Carey”じゃなくて”M.R.Carey”って書いてあるんだもん……)という体たらく。
 本作を読んで反省。
 どんな形のエンターテイメントでも”読んだ人からは軒並み高い評価を得ているのに何故か世間的な認知度が低い”作品や作り手というのはいるものだけれど、彼は間違いなくそんな存在の1人。今後は積極的に彼の作品に手を出して少しでも応援したいと思います。


…というわけでそんな彼の小説をば紹介(Amazon): The Girl with All the Gifts


 本作は1つの児童小説を巡りそのページの内外でメタ的に展開される物語に、古今東西の文学の要素を取り入れて「我々の世界と別の世界とを巡る陰謀に古今東西の文学及びその作者が巻き込まれる」としたファンタジー。今のところ本筋には絡んでこないもののMark TwainやRupland Kiplingといった実在の文学者が登場し、彼らの著した作品も陰謀に立ち向かう手段として積極的に用いられる。

 現実と創作は水と油という話は既に何度もしているものの、それは既存のフィクションを作品に取り入れる場合も変わらない。その作品を読んだことがない人には読むきっかけを与えるかもしれないが、これはその読者にとって”物語”と”物語の中に登場する実在の作品”とが同じ次元のフィクションとして存在するからであって、既にそれを読んでいるファンにとってはイメージをぶち壊しにされていい迷惑だったりすることがないでもなかったりする。
 本作ではそこらに対する配慮と言おうか、積極的に文学作品を話の中に取り込みつつ、しかしイメージを損なわないように敬意を払っている印象を受けた。

 正直ファンタジーはあまり得意なジャンルじゃないのだが、本作は久々に良作の予感がする。


こちらが本記事で紹介する合本(Amazon): Unwritten Vol. 1: Tommy Taylor and the Bogus Identity


上記小説の日本語版。試しにどうぞ(Amazon): パンドラの少女〈上〉 (創元推理文庫)


同上(Amazon): パンドラの少女〈下〉 (創元推理文庫)