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DIINITY III (Valiant, 2016-17)

 どんな鎧も貫く槍と、どんな弾も跳ね返す盾と。2つが衝突すれば一体何が起こるのか。
 絶対的な力を有す存在。神に等しい力を得た3つの魂。彼らはどのような世界を、運命を選ぶのか。
 三部作の末に辿り着いた答えがここにある。


原書キンドル版(Amazon): Divinity III: Stalinverse #1

 歴史は変わってしまった。
 ソ連が崩壊しなかった世界。時空を自在に操るMyshka率いるRed Brigadeの守護のもと、共産主義は世界全体に浸透し、個人は国家繁栄の歯車としてのみ生きることを許されていた。僅かな抵抗勢力も洗脳されたX-OやBloodshotの手により駆逐され、反抗の兆しを見せた者は即座に粛清される。
 何故世界は変わってしまったのか — 元の世界の記憶を保持するColin King a.k.a Ninajakはその答えを、そして世界を元の世界に戻す方法を求めてとある人物を訪ねる。
 男の名はAbram Adams — Myshkaと同じ神が如き力を有し、かつて彼女の野望を食い止めた筈の彼はしかし、今は精神療養施設に収容されていた……。

 DIVINITYシリーズ完結編。今回も素晴らしい作品。
 クリエイター陣の基本構成はほぼ変わらず。ライターのMatt Kindt(新しくValiantで始まったX-Oの新シリーズも早速ゲットしたよ)、ペンシルのTrevor Hairsine、インクのRyan WinnにカラーのDavid Baron。
 Marvel、DC、Dark Horseなどで多岐にわたるジャンルの作品を手がけているKindtは既にアメコミ界でその名は広く認知されているものの、アートを担当した他の3人も本作を鑑みれば今後DCやMarvelへ活躍の場を広げることは必至かと。
 この3人のアート、リーフだと巻末にオマケで作画のプロセスを載せているのだけれどとにかく芸が細かい。キャラクターの表情や仕草といった基本的な部分は勿論のこと、ストーリーテリングに合わせた構図やコマ割り、テーマに合った色遣いや陰影など舌を巻くほどのこだわりぶりが見て取れる。
 前2作では基本的にDivinityとMyshkaの独壇場だったため少なめだったアクロバティックなアクションも、今回はValiantヒーロー V.S. Red Brigade なんてチーム戦もあれば、Ninjakとかしっかり翔んだり跳ねてしてくれて大変満足。

 シリーズ毎に”超人”という存在の新たな可能性を見せつけてくれる本作。類似作品がなんとなく曖昧に濁してきた「どうして人の理想を叶えてあげてはならないのか」とか「どうしてできることをやってはいけないのか」とかといった哲学的命題に真っ向から取り組んだ — しかもそれをシリーズ各4冊に収めた — という点で大変優秀な作品。
 こういった作品を作ることができるライターは下手するとAlan Moore以来かもしれない。もっと言ってしまえば本シリーズはMooreがWATCHMENやMIRACLEMANで投げかけた疑問に対して1つの答えを提示したとさえ言えるやも。

 行き着くところまで行き着いて終了したDIVINITY三部作……と思ったら今度はETERNITYなる新シリーズが始まるそうな。
 今から期待せざるを得ない。