深い闇色の中に血の紅が躍る。アメリカン・ホラーの真骨頂。
原書キンドル版(Amazon): Locke & Key: Welcome To Lovecraft #2 (Locke and Key: Welcome to Lovecraft)
高校教師だった父親を元教え子に惨殺されるという悲劇に見舞われた Locke 家。残された妻と3人の子供達 — 長男の Tyler, 長女の Kinsey、そして次男の Bode — は心機一転を図るため、父の遺した古屋敷のある Lovecraft という街へ移り住む。しかしこの通称 Keyhouse と呼ばれる古屋敷にはある秘密が隠されていた……。
不思議な鍵の数々を巡る家族の物語がここに幕を開く。
ライターの Joe Hill は現代アメリカン・ホラーの急先鋒ともいうべき若手の著者。頭に角が生え悪魔の能力を手にしてしまった男の復讐劇を描いた HORNS や、子供達を異世界に拐かす怪人が登場する NOS42 、あるいは最近だと全身を発火させるウイルスによるパニックと希望を描いた終末劇 THE FIREMAN など、代表作を上げればキリがない。そんな斬新な設定と読み応えのある小説を数多く刊行している彼のコミック代表作が本作となる。
アートを担当する Gabriel Rodriguez は本作を刊行した IDW をメインに活躍するアーティストで、本作以前は CSI のコミック版などを制作していたよう。
マスクやコスチュームの出番がなく登場人物に多彩な表情を与えられるかがキーとなる本作で実に良い絵を描く他、建築のバックグラウンドを持つ彼は複雑な構造の屋敷が舞台である本作においてその手腕を見事に発揮している。
誰も馬鹿じゃないホラーってとても魅力的。ほら、一般的なホラーって馬鹿が多いじゃないですか。立入禁止の場所にわざわざ入っていくパンピーな馬鹿とか、生きるか死ぬかのシチュエーションでどうでもいい欲や反抗心を剥き出しにして墓穴にダイブインする馬鹿とか。
ああいうのって定番と言えば聞こえは良いのかもしれないけれど、要するにプロットを優先させるためにキャラクターを犠牲にする行為でしかないんでパロディやネタとして扱うのであればともかく、真面目な劇をやろうとしてこれを使っても特に恐怖心を煽られることもなければ、むしろ興ざめでさえあることがしばしば。読者視聴者から見ても賢く動いているように見える奴でさえ追い詰められてしまうような存在だからこそ怖いんじゃないでしょうかね(そういう意味で「下手に動き回るより助けを待った方が良い」と健全な判断をした者達が溺れてしまった映画 THE POSEIDON ADVENTURE なんて何気にレベル高いと感心した覚えがあったり)。
本作に馬鹿は一切登場しない。長男 Tylerを始めとした Locke 家の大人達は勿論のこと、そこらに転がってるホラーだったら馬鹿なことをしでかすプロット・ツールになっていたであろう幼い Bode でさえ最大限に賢い選択肢を取ろうとする。
だが屋敷に幽閉されていた存在 Echo や、彼女の助けを経て再び Locke 家に迫る殺人鬼 Sam はそれより一枚上手。
だから怖い。だから胸が高鳴る。
ホラーでありながらキャラクターがただパニクるだけではなく、恐怖を知恵と家族の絆で乗り越える様もしっかり描く本シリーズ。今後どうなっていくのかが非常に楽しみ。