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BATMAN: BATTLE FOR THE COWL (DC, 2009)

 ライターが Grant Morrison でなく Tony S. Daniel であるため正確には Morrison サーガに含まれないのかもしれないけれど、物語上繋がっていることは事実なのでここでも扱うことにした。

原書版合本(Amazon): Batman: Battle for the Cowl

『FINAL CRISIS』事件で命を落とした(と思われている) Bruce Wayne a.k.a Batman 。守護神が不在となった Gotham の街で勢い付く Two-face や Penguin などへ対抗するため Nightwing a.k.a Dick Grayson は Batman に縁のあったヒーロー達を率いて立ち向かうが、闇の騎士という畏怖すべきシンボルなしで少しずつ状況は悪化していく。皆、知っているのだ — Gotham には Batman が必要であり、そのカウルを引き継ぐに最もふさわしいのは、何故かそうすることを躊躇う Dick に他ならないということを。やがて何者かがBatmanを名で犯罪者達を血祭りに上げ始めると、事態を看過できなくなった Robin a.k.a Tim Drake は自ら漆黒のマントを羽織り捜査に乗り出すが……。

 Daniel がライティングもアートも担当している本作。これまで彼のアートはともかく、ストーリーについては New 52 開始直後の『DETECTIVE COMICS』なんかを読んでも正直ピンと来なかったけれど、これは大変楽しく読めました。ごちそうさまです。
 とりわけ本作はアートもライティングもできる彼の才覚が、似たようなコスチュームの Batman やら Robin やらを描き分けるところで遺憾なく発揮されていたかと。まあ、着ている人間によってそこそこデザインが違うんでよほどのトーシローでなければ間違えることはないものの、”戦士”な Dick、”アウトロー”な偽 Batman 、”探偵”の Timと3人の新 Batman 候補それぞれの特徴がその行動や考え方にしっかり反映されているため、デザインが一緒でもすぐにわかったかと。
 強いてダメ出しするなら Damian だけ Morrison サーガで描かれるより若干貧相な性格かもしれない。とは言うものの、まあ普通この年齢のガキンチョだったら精神レベルもこんなもんかとも思ったり(但し女の子をナンパしてるようなところは流石に違和感あった。お前思春期さえ迎えてたっけ?)。

 あと、あらすじでも記した通り、Batmanに縁のあるヒーローが数多く登場するのでキャストが豪華なのも本作の魅力。こうして並んでいるところを見るだけでも New 52 以前の『OUTSIDERS』とか『BIRDS OF PREY』とか読んでみたくなる。

 今回の合本には表題作の他に Batman がいなくなった Gotham で非ヒーロー(+ Spoiler )の姿を描写した特別編の『GOTHAM GAZETTE』を2本収録しているのだけれどこちらも中々面白い。
 特に Harvey Bullock は『GOTHAM CENTRAL』で一回底を打ったところを見ている分、こうして葉巻をくわえたトレンチ&フェドーラの刑事として本格復帰しているところを見られるのは嬉しい。ドラマ『GOTHAM』の彼も中々格好いいが、やはりコミック版のビール腹の方が個人的には好き。
 Spoiler なんかも中々いいね。彼女に関して私はあまり馴染みがないのだけれど、そのうち彼女がBatgirlの衣装を身に着ける Bryan Q. Miller 版に手を出してみたくなりました。

 ぶっちゃけ本作で最終的に誰がBatmanの衣装を身に着けるようになるかは読む前から大体予想が付く。無論、この直後に開始された『BATMAN AND ROBIN』から Morrison サーガを読み始めた私は言わずもがなだ。
 しかし、それでも彼がそこに辿り着くための葛藤や決意を辿るのは楽しいし、最後に彼がカウルを羽織って登場するシーンには新たな時代の到来を思わせる高揚感が得られる。
 アクションとドラマのバランスも良く、 単なるMorrison サーガからのスピンオフとしてのみ扱ってしまうには勿体無い逸品でした。


邦訳版合本(Amazon): バットマン:バトル・フォー・ザ・カウル