騎士とは王に忠誠を誓い、甲冑に身を包んで戦場を駆ける兵のことである。
その貴き姿は威風堂々、燦然たる態度は泥を被ろうと少しも損なわれることはなく。
ただ、命果てるその瞬間まで己が剣に祈りを託す。
忠誠を誓う相手や闘う相手は時代と共に変わっても、その志は少しも変わらない。
スーパーヒーローとは、現代の騎士である。
分冊キンドル版(Amazon): Daredevil (1998-2011) #1
恋仲にあったKaren Paigeと破局し、うだつの上がらぬ日々を送っていたMatt Murdock a.k.a Daredevilのもとへ乳児を抱えた1人の少女が助けを求めにやって来る。天から啓示を受けたと語る彼女は新たな救世主であるというその子をMattに託して姿を消す。真相を探るべく動き出したDaredevilだが、大いなる陰謀が待ち受けていることを、この時の彼は知る由もなかった…。
”MARVEL KNIGHTS”という単語を耳にしたことのある者はどれくらいいるだろう。この単語に胸をかき立てられる者は。
98年に一度経営破綻したMarvelは立て直しを図るべく、当時既にアーティスト兼ライターとして高い評価を得ていたJoe Quesadaを監修に迎え入れ、当時マイナー扱いされていたキャラクター達をピックアップし、これまでのしがらみにとらわれない自由な作品づくりを奨励する新レーベルを立ち上げた。
それが”MARVEL KNIGHTS”だ。
Garth EnnisとSteve Dillonの『PUNISHER』、Paul JenkinsとJae Leeの『INHUMANS』など、”MK”レーベルの名を冠して刊行された作品はどれも高い評価を得、当時死に体であったMarvelを蘇らせたと同時に、現在まで人気を誇るキャラクター達の新たな形を創造した。
そして、Joe Quesada自身が友人の映画監督Kevin Smithを招いて共に制作した作品が本作『DAREDEVIL: GUARDIAN DEVIL』だ。
他にスタッフとして名を連ねている者に関してもインクに現在『HARLEY QUINN』の共著者として知られるJimmy Palmiotti、カラーに『MARVEL 1602』の記事でも紹介したRichard Isanoveなど誰も彼も現在第一線で活躍している者ばかり。
言うまでもなく抜群の読み応えである。
分冊キンドル版(Amazon): Daredevil (1998-2011) #4
Daredevilがその名に反してカトリックであることはよく知られているが、本作では彼の信仰、その揺らぎが大きくクロースアップされる。
確かに科学が日常的に奇跡を起こし、北欧の雷神が摩天楼の間を飛び回るMarvelの世界観では神の存在に疑念を抱いてしまうのも無理はない。
しかも、Daredevilはそういったスーパーヒーローとは異なり、必ずしも派手な衣装と尊大なエゴで武装したスーパーヴィランばかりが相手ではない。彼が闘う相手は大抵、白いスーツに身を包んだ大企業のトップであり、街の路地裏で日常的に暴力を奮う人の屑だ。GalactusやUltronに比べて肉体面精神面では遥かに劣るかもしれないものの、その分かえって醜い。
そんな社会の汚物を散々目の当たりにし、日常にもヒビが入った時、Mattがこれまで心の拠り所としてきた神の恩寵、ひいてはDaredevilとしての自らの存在意義に疑問を抱いてしまうのも無理はない。
本作の脅威はそんな彼の心をさらに引きずり下ろす。あの手この手を使ってその志を挫こうとする。
しかし、彼は折れない。
どれだけの悲劇に見舞われ、どれだけ大切なものを失っても、彼はなお”スーパーヒーロー”としてどん底の中から這い上がり、泥の中から希望のかけらをかき集める。
それこそが自身の信仰告白であるかのように。
そんな彼に応えるのは神ではなく、彼に寄り添う友人であり、自分自身だ。
だが、それこそが神の恩寵であることを否定できる者はいない。
分冊キンドル版(Amazon): Daredevil (1998-2011) #8
スーパーヒーローとは現代の騎士である。
どれだけ悪魔の返り血を浴びた我が身が変わろうとも、その崇高なる魂が汚れることはない。
原書合本版(Amazon): Daredevil: Guardian Devil (Daredevil (1998-2011))