英雄と怪物は紙一重。
こういったテーマはヒーロー物ならしょっちゅう取り上げられるネタだ。本連載でも言及したことがあるのではないだろうか(ぱっと思い出せないけど)。
本作はそのコンセプトを徹底的にハリウッド・エンターテイメントとして扱った作品と言えよう。
分冊キンドル版: The Strange Talent of Luther Strode #1 (of 6)
ひ弱なオタクだったLuther Strodeは通販で購入した肉体改造プログラムを試してみたところ、広告どおりのムキムキマッチョと化してしまった!いじめっ子を容易く跳ね除け、女の子の心も射止めてしまうLutherだったが、肉体改造プログラムには隠された秘密があった…。
えーと、まず最初に言っておくと本作は結構グロいです。Tradd Mooreによるカートゥーン調のアートやFelipe Sobreiroのポップな色遣いなどでだいぶデフォルメを試みているようですが、本作のバイオレンス描写はそんな効果を無に帰してしまうほどのブラッド・バス&ミート・ポルノでございます。物語序盤の見開き時点で腕は千切れるわ内臓は飛び出すわ。ここを耐えられるかどうかが本作を読み進められるかの一定の指標になるかと。イメージとしては人間版Happy Tree Friendsとかですね。
ただ、そのグロさを乗り越えると本作は最初にも述べた通りかなりレベルの高いハリウッド系エンターテイメントとなっている。Spider-manと『THE FLY』とをかけ合わせた雰囲気といえば大体どんなものか想像がつくか。
まず、敵味方の境目がしっかりしており、人間関係が非常に分かりやすい。味方は友達から彼女に母親まで誰もが良い人だし、敵も典型的なやられ役からTHE 冷徹な殺人鬼まで悪役であることを喧伝しているような味付けのキャラクターしかいない。
こう記すと本作に登場するキャラクターは全員テンプレ的な、描写の甘い人物ばかりだと思うかもしれないが、それは違う。
確かに本作の登場人物にはかなりカテゴライズされたキャラクタリゼーションが施されており、各々がその枠からはみ出すようなことはほぼない。しかし、一方で主人公のLutherにはその「悲劇のヒーロー/モンスター」という枠内で十分な葛藤や衝動があるし、逆を返せばこれは物語の勢いを衰えさせることなくギリギリまで余分な贅肉を削ぎ落とした結果とも言える。
原書合本版(Amazon): The Strange Talent of Luther Strode
同じく物語がかなり一本調子なのも無駄を徹底的に取り払った結果といえるだろう。
本作は「超人的な力を手に入れた少年が怪物と見做される悲劇」というよくあるコンセプトをかなり地で行っている。能力を手に入れたLutherが咄嗟にいじめっ子へやり返したり、友人のPeteに誘われてスーパーヒーローの真似事をしてみたり、でもその結果助けた相手に文句を言われたりと、シーンの大半は他の類似作品でも珍しくない描写ばかりだ。そもそもLutherが力を手に入れる経緯にしたところでDCのFlex Mentalloそのままである。
けれど、一歩退いて物語全体を俯瞰してみると、しっかりオリジナリティは備わっている。シーンごとに見るとどれも既視感のある内容ばかりだが、全体としては読み進めるに足る本作独自の魅力が十分に生じている。
こういう作品の作り方はGeoff Johnsなどが得意とする手法だが、本作のライターであるJustin Jordanもそれを物にしていることは本作の読み応えがしっかりと証明している。
これで終わりかと思えば、実は本作には続きがあるそうな。類似作品でよくあるシーンが底を尽きたと思われるここからこの作品がどう開花していくのか、是非とも読んでみたい。