前回は2丁拳銃を携えたゴリラの話をした。
なら、今回はレーザー銃片手にジェットパックで宇宙を駆けるゴリラ少年が登場する『UMBRELLA ACADEMY』の話をしようか。
邦訳版: アンブレラ・アカデミー ~組曲「黙示録」~ (ShoPro books)
今回はVol.1の『APOCALYPSE SUITE』(こっちは何年か前に邦訳版を見かけたことある)について扱おうと思う。
世界各地で同じ時刻に生を受けた43人の不思議な子供達 — 冒険家であり発明家である以上に謎の存在であるReginald Hargreevesはそのうちの7人を集めて「世界を守るため(何から?)」チームを結成する。それから20年後、解散してそれぞれの道を歩んでいた元メンバー達の許へHargreevesの訃報が届く……。
一応説明しておくと、My Chemical Romanceとは2001年から2013年まで活動していた米国のパンクロックバンドで、その独特のメロディやストーリー性のある歌詞は多くの熱狂的ファンを生み出した。本作のライターであるGerald Wayはそのボーカルであったと同時に大のコミック好きとしても有名で、とりわけGrant Morrison作品の大ファンだ。
本作が高く評価されたのをきっかけにコミック界でも一気にスターダムの階段を駆け上った彼は、現在DCの新レーベルYoung Animals(ググったら日本の同名雑誌ばかりが出てくると一時話題になってた。『ママン、スーパーヒーローの表紙画像を検索したら水着のお姉ちゃんばかり出てきちゃったよ!』)の監修を務めている。
で、その出世作である本作なのだけれど、確かに面白い。この関節の外れた雰囲気はちょっと癖になるものがある。
しかし一方で、具体的にどこが魅力的なのかはっきり指摘し辛い。少し前の懐かしい雰囲気のする世界観とか、スペース(ゴリラ)レンジャーや人間ヴァイオリンといった人物造形とか、面白くしていそうな要素は諸々感じ取れるのだけれど、同じような雰囲気のコミックはたくさんある。本作が他より秀でている理由は何なのだろうと首を傾げざるを得ない。
Wayのストーリーと、アーティストGabriel Báの絵柄がマッチしているというのは1つ挙げられるかと思われる。Báのアートは目に優しいと同時、体の機微な動作がキャラクターの心情を具に表現しており、ダイアログだけでは表現し切れない部分をしっかり補っている。
また、アートに関して忘れないうちに言及しておきたいのがカバーを手掛けたJames Jeanだ。淡い色遣いや意匠を凝らした構図による絵を描くJeanはDC/Vertigoの『FABLES』の幻想的な絵が有名だが、あちらよりも冒険活劇的な要素が濃い本作では彼のダイナミックな絵を見ることができる。
個人的に気に入っているのは#3のカバー。観覧車を背景にミサイルを繰り出すロボットへ立ち向かうメンバーの姿はとても格好いい。
Kindle版: The Umbrella Academy: Apocalypse Suite #3 (The Umbrella Academy Vol. 1)
1つ、Wayのライティングに関して言えることは、彼の紡ぐダイアログは口にして違和感がないということだ。声に出しても突っかかるようなことがなく、イントネーションなども収まる場所にしっくり収まる感覚がある。
これにはWayがバンドで歌詞を書いていたということが大きいのかもしれない。口に出す言葉を書くのに慣れている彼が、台詞作りでも直感的に心地よいリズムを生み出しているのではないだろうか。
少し時間を置いて再度読み直した時には本作の魅力も分かってくるかもしれない。
Vol.2(そのうち紹介したい)が出てから既に7,8年経つが、予告されていたVol.3”Asylum”は大幅に遅れながらも少しずつ動いてはいるようだ。不思議な魅力を備える本作の1日でも早い復活を期待したい。