自分にとってはガラクタでも他人にとっちゃ宝物、なんてのはよくあること。一見美味しい話には大概裏があることを忘れてはならない。
前回があまりにも暗い作品だったので、今回は気分を百八十度変えてコメディといこう。あまり有名な作品ではないものの、個人的にはかなり面白かった娯楽作である。
とあるカジノで雇われポーカー師として生計を立てながら、いつかプロになることを夢見るJoey Martinはある日、余計な一言が仇となり友人達へその魂と引き換えに酒を奢らされる羽目に。だが後になって天使を名乗る男が「不正に取引された魂を貰い受ける」ためやってきたことで、Joeyの運命は大きく変わることとなる。
主人公の屑っぷりが大変よろしい。こういう周囲のこととか後先とか考えずに自分勝手動く奴は大好物です。『V FOR VENDETTA』の記事で「ヒーローによる不特定多数の救済」というアメコミの大きな要素に関して言及したが、本作は「魂の救済」という形でそれを隠れ蓑にしつつ、だが実際にはヒーローと呼べるような奴は1人もいない。誰もが自分のことだけを考えている。そのことによって引き起こされる珍騒動の顛末が実に痛快である。
Bill Willinghamはポスト『SANDMAN』時代におけるDC/VERTIGOの代表作、『FABLES』のクリエイターとしても知られるライター。『FABLES』はそのアップビートながらたまにビターな展開や軽々としたテンポ、あるいは人間味あふれるキャラクターなどがウリだが、それらの魅力は本作でも存分に発揮されている。その完結から少し間を置いて『FABLES』が始まっていることや、色んな伝承の神々や神話の存在がたくさん出てくることからも、本作はちょっとしたプロトタイプと考えても良いかと思われる。
映画や小説などを見ていると、完璧な計画を立てたのにちょっとした偶然が理由でうまくいかなかったり、本来なら主人公に勝ち目はないのに敵が都合の良い裏切りに逢って勝利したりという展開にしょっちゅう出くわす。とりわけ主人公達の計画が世界の理屈を変えてしまうような代償をもたらすような内容の作品に限って、その傾向は強い。
取らぬ狸の皮算用、現実はそう甘くない、と一括りに言ってしまえば容易いがひねくれ者の私などは成功しちまえば良いのに、と思うこともしばしばだ。
その点、本作は上記のような作品とは真逆のアプローチを取っていると言える。
本作の主人公Joeyには計画性など微塵もない。考えも浅く、その場その場を渡り歩くような男だ。そんな彼の手から大量の魂を回収するため天界の者達はあの手この手を使って説得を試みるが、彼は頑として首を縦に振らないどころか、みるみる周囲を巻き込んで邁進していく。ここで細に語るようなことはしないが、最終的な着地点も「ざまあみろ」と言わんばかりの上出来ぶりだった。
本作で最も馬鹿を見るのは既存の天国だ。他のエンターテイメント作品でなら暗黙の了解として常に勝者のポジションにいる存在が一杯喰らわされるのを見るのは愉快だが、ふと改めて考えると天国のみならず我々は様々なものに対して根拠のない権威を与えているかに気づかされる。
ルールというのは積極的に壊していくべきものだ、と。