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『MARSHAL LAW: THE DELUXE EDITION』(DC)

 パロディというジャンルほど好みの分かれるものはあるまい。
 そもそもパロディとは原典に対する作り手の意見というか主観に基づいているため、批判的攻撃的性格を帯びやすく、もっと言えばその攻撃性を隠すためにコメディの形式をとることが多い。コメディにおいて「攻撃」は「ツッコミ」に変換されるからだ。
 だが、スーパーヒーローというジャンルにはもう1つ別のツールがある。
 アンチ・ヒーローの存在だ。


原書合本版(Kindle版もあり): Marshal Law: The Deluxe Edition

 本日はパロディアメコミとして有名な『MARSHAL LAW』について語ろう。
 大震災Big Oneにより破壊されディストピア社会となったかつてのサン・フランシスコ。そこで法の番人を務めるMarshal Lawは今日も自らを”スーパーヒーロー”と名乗る屑どもを取り締まる。

 アンチ・ヒーローを使うことのメリットは色々あるが、まずこれだけで1人強烈なキャラクターを作り出すことができるというのが挙げられる。人は自らの意志を貫き、大きな流れに逆らうキャラクターが大好きだ。周囲に良い顔をしていて実は腹黒い奴がぎゃふんと言わせられるスキャンダルも大好きだ。アンチ・ヒーローはこの2つの欲求を同時に満たしてくれる格好の存在であり、同時にそのキャラクターとしての方向性が決めやすい存在でもある。

 本作の主人公であるMarshal Lawもそんなアンチ・ヒーローであることは間違いないものの、一方でライターのPat Millsもあとがきで記している通り、そのパロディとしての矛先が必ずしもヒーローに向いているわけではないというのが面白い。
 初期の作品で出てくるヒーローの多くがキリスト教をモチーフにしていることからも分かるが、本作に出てくる屑どもはDCやMarvelのスーパーヒーローを連想させるキャラクター造形を取りつつ、実のところその体現しているものは宗教であったり政治であったりという現実的な存在なのだ。故に読んでいる方の感覚としてもある種、新聞に載っている風刺画を眺めるようなところがある。

 Millsの名前は方々で耳にしていたものの、実際に作品を手に取ったのは本作が初だった。こういった面白い捻り方をするのはブリティッシュ系のライターが多く、個人的な好物でもあります。

 アーティストのKevin O’neillと言えば、日本においても『THE LEAGUE OF EXTRAORDINARY GENTLEMEN』のクリエイターとして有名かと思われる。『LoEG』は主にヴィクトリア期から現代までの話だったため、CENTURY編の一部を除いて色合いが地味な印象だったが、本作は舞台も近未来のサン・フランシスコ(作品内ではSAN FUTUROと名を改めている)なら、出てくる登場人物もMARVEL やDCの代表的なスーパーヒーローをパロった極彩色のコスチュームを纏っているため派手だ。アクションに関しても文学的な『LoEG』と異なり、本作では過激にバンバン攻めてくるので、これまで知らなかったO’Neillの魅力を味わうことが出来る筈。上で風刺画のような印象を受けると記したが、人物の特徴を過剰なまでに誇張した彼のアートに依るところも大きいのかもしれない。

 パロディはフィクションの道化だ。原典をデフォルメしたカリカチュアであり、時としてグロテスクな副産物である。そこへは常に作品やクリエイターを貶めるリスクがつき纏うにも関わらず、その刃がどこを向いているか意識していない作品が余りに多すぎるのではないだろうか。
 本作は切っ先を明確に意識している作品として、パロディの教科書として読むことも可能かもしれない。