VISUAL BULLETS

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WE CAN NEVER GO HOME (Black Mask Studios)

 ふと気がつけばこれまで語ったものうち直近の作品でさえ10年近く前のものだったので、今回は比較的最近出た WE CAN NEVER GO HOME について。


Kindle版: We Can Never Go Home (Issues) (5 Book Series)

 1989年を舞台に、超人的な身体能力を有する少女マディソンと、ふとしたことから彼女の能力を知った少年ダンカンとの危うい駆け落ちを描いた本作。

 出版元の Black Mask Studios はストーリー的にもアート的にもいわゆる”メインストリーム”とは少し遠ざかった場所に位置しており、オキュパイ運動に同調したアンソロジー OCCUPY COMICS を始めとした、政治現象や社会問題をテーマにした作品なども積極的に扱うちょっと尖った会社です(本作も合本の後書きで銃社会に対する批判などについて言及している)。正直なところラインナップは玉石混合ですが(去年#1だけ読んだ魔法少女物には頭を抱えたぜ…)、本作は2015年のナンバー1との呼び声も高いのでご安心を。


 結論から記すと、本作はアップビートなテンポの良さや癖のないアートなども良かったのですが、最も功を奏したのは特殊能力を持った内向的少女と拳銃を持った調子の良い少年の二人組という、それぞれのキャラクターと、そんな二人の相性の良さかと。

 個人的なバイアスの話をすると、私は青春ものって余り得意ではなく。

このジャンルって大概が

1)青春が黄金時代だったクリエイターのノスタルジー
2)青春が暗黒時代だったクリエイターの「こうあって欲しかった」という妄想の垂れ流し

のどちらかで、最終的に色恋沙汰へ収束していくことが多いのがもう面倒臭いというか鬱陶しいわけで・・・。
修学旅行とか学校祭とかキラキラフィルターかけ過ぎだろ、と。恋愛模様とか恥ずかしいやら冷めるやらで見ていられなくなるんですよね。

 まあ、私の青春がマンハッタンの路地裏よりも真っ暗でせいかもしれませんが。

 ただ一方で思春期を扱う作品は不安定な時期故の危うさが大きな武器であり。

 この手の作品はセックスやバイオレンスといった強い刺激に対する内的欲求だとか、学校や家族といったセーフティネットのない現実社会という外圧との初遭遇だとか、良くも悪くも登場人物の身になって状況に転がされていれば、良い感じに”思春期のアイデンティティ”というテーマ(ティーンエイジャーが出てくる作品は十中八九これ)に対するある種の回答が勝手に立ち上ってきますし。というか基本的にこの種の問いに正解はないんで、クリエイター側が「お話はここまで」と区切りをつけた時点での現状がテーマとして成立しちゃうのかと。 


 本作もその例に漏れることはなく、マディソンは自分の出自に戸惑い、ダンカンは性と暴力への欲求に翻弄されながら、警察にギャングに超能力集団にと開けた世界が次々繰り出す存在やトラブルを何とかかんとかくぐり抜け、最終的に”アイデンティティ”という問いに対する各々の回答を提示します。
 そんな訳だから上でも述べた通り、重要となってくるのがキャラクター作りで、もっと言えば旅の道連れとなる登場人物同士の間とか登場人物と読者とで良い化学反応をもたらせるかどうかだったんですが、本作は二人の相性がとても良かったので、私も苦手な青春ものの割には中々楽しむことができました。


 謎も残った本作は2017年に続編の刊行が予定されているものの、別にここで話を終わらせてもそれはそれでありだったと思うというのが正直な感想。ライターのマシュー・ローゼンバーグは現在、同じBlack Mask Studiosから 4KIDS WALK INTO A BANK という作品を出していますが、中々好評を博しているこちらも続編と合わせてそのうちチェックしてみたいですね。


原書: We can never go home