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BLACK ORCHID (DC/Vertigo, 1988-89)

 実はアメコミに関してなんやかんやと語る文章を綴ろうと思った時、何故か最初に思いついたのが本作 BLACK ORCHID でした。 SANDMAN のニール・ゲイマンがライターを、 ARKHAM ASYLUM のデイヴ・マッキーンがアートを務めた作品という時点で読む前から期待のハードルが上がる上がる。そしてそんな期待は裏切られませんでしたとさ。


原書合本版(Amazon): Black Orchid Deluxe Edition

 とある企業に潜入していた奇怪な女 — 彼女が見つかって殺害されると同時に郊外の植物園で目覚めた紫の肌を持つ女は、遅れて目覚めた少女と共に自分達の出自を探り始める。だが同じ頃、彼女達の存在に気づいた企業も二人に追っ手を差し向け…。


 ブラック・オーキッドというキャラクター自体は DC に以前からおり、スーサイド・スクワッドのようなチームの一員だったこともあったものの、本作以前はそこまで掘り下げて描かれたことがなかったようです(最近は New52 でJジャスティス・リーグ・ダークのメンバーとして活躍したりもしていたけれど)。
VERTIGO レーベルについても、今でこそメインの DC ユニバースと完全に切り離されたインデペンデント系作品ばかりですが、この頃はまだ緩く繋がりを保っており、本作のように長らく御役御免となっていたキャラクターを新機軸でリブートすることもしばしば。そのため自分探しをするオーキッドの訪ね先がお馴染みの精神病棟だったり、彼女を追い求める企業の親玉も見慣れた人物だったりとゲストも豊富(植物関連の人はあらかた顔出してるんじゃなかろか)。個人的にはマッド・ハッターがいい役してました。


 本作においてマッキーンはページを上下に分け、それらを更に3(〜5)の均等なコマに割るというちょっと他では見かけない手法をとっています。アメコミのコマ割りで有名なのは WATCHMEN などの3×3のコマ割りですが、この2×3というのも中々面白いかと。
 絵柄や雰囲気の違いによる差もあるでしょうが、きれいに整頓されたアルバムのような配置で無機的だった前者に対し、こちらは管楽器の鍵盤を連想させ物語全体に一種音楽的な流れを生み出します。これにページのコマ数が偶数であったことも加わると、特に時間や場所をモンタージュする際などに(変な言い方かもですが)有機的な印象を受けるように思われます。
 近年、マーベルの VISION など、コマ割りに拘りをみせる作品をちらほら見かけるようになりましたが、話の雰囲気に合わせてコマ割りを使い分けるられるのも立派な技術といえるでしょう。


 更に本作のクリエイター陣で忘れてはならない人物がレタリングを担当したトッド・クライン。
 レタリングというのはアーティストの絵柄に合わせて台詞や効果音などを配置することで、アメコミの世界では専門のプロがいます。クラインは DC やマーベルの多くの作品でロゴデザインを担当した匠の1人であり、その才覚は本作のインテリアでも遺憾なく発揮されています。とりわけキャプション(モノローグなどに使う真四角の吹き出し)の配置(例えば "Fall" という単語があるキャプションは落ちているように見せたり)や色遣いなどは絶妙で、いつまで見ていても飽きないアートに仕上がっています。


 本作が VERTIGO の名編集者カレン・バージャーに評価されたことがきっかけでゲイマンは SANDMAN のライターを担当、マッキーンも後に ARKHAM ASYLUM のアーティストに抜擢されます。
 それらの作品と比べて必ずしも知名度が高くない本作は、しかしここにしかない二人の魅力を確かに備えています。



原書合本版(Amazon): Black Orchid