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今、スタン・リーの身に何が起こっているのか?

 正直、こんな芸能記事みたいなもの書くのもどうかと思ったが、結構色んなクリエイターが声を上げている以上業界と無関係とも言えないし、また意外と現状を整理できているサイトが国内はおろか海外でもなかったので自分なりにまとめてみようと思った次第です、はい。

 あまりに色々な情報が錯綜しているため完全に整理できてもいなければ、間違っている点もあるかもしれませんが悪しからず。


 さて、アメコミを読む人間で「スタン・リー」の名を知らぬ者はいないだろう。
 1960年代にマーベルファンタスティック・フォーを始めとした数多くのキャラクターを生み出すことに関与してきた人物である。一線を退いた後も精力的な活動を続けてきた彼を慕う者は数多い。

 だがそんな彼が現在途方もなくややこしいトラブルの渦中にあることはご存知だろうか。

発端

 ことの発端は昨年7月に長年彼と連れ添ってきた妻のジョーン・リーが亡くなったことに始まる。ビジネス面や家庭面など様々な形で自身を支えてきたジョーンを失ったことはスタンに大きな精神的ショックを与えた。

 そんなスタン・リーを巡るトラブルが表面化したのは2017年の暮れ
 スタンの名を偽造し『ハンズ・オブ・リスペクト』という企業に$300,000の小切手が贈られたとして、警察に被害届が届け出されたことを海外ニュースサイト TMZ が報じた。
『ハンズ・オブ・リスペクト』はスタン自らが設立に関与した企業。サイトなどをみると慈善団体っぽく、スタンも当初は非営利団体だと思っていたらしいが、実際は立派な営利企業である。


 続いてスタンの周辺で異変が生じたのは年が明けてやや経った今年の2月。スタンが肺炎による体調不良で一時入院していたことが報じられてしばらく経った頃だ。 

 まずスタンの周囲を取り巻く人事に大きな変更が加えられた。
 顧問弁護士であるトム・ロラスを皮切りに、古くから彼のもとで働いてきた家政婦や園芸師などが続々解雇。20年以上に渡ってアシスタントを務めていたマイク・ケリーも解雇こそされなかったものの、面会の際には大きな制限を設けられた。

 中でも話題となったのはスタンのツアー・マネージャー兼ボディーガードとしてこれまで数々のイベントに付き添ってきたマックス・アンダーソンの解雇。突如 DAILY MAIL 紙に「看護師と共謀してスタンを操ろうとした」というスキャンダルを報じられた彼は、それを理由に解雇されてしまう。
 
 しかしこのことについて、マックスのスタンに対する献身的な姿勢を知っているニール・アダムス J.スコット・キャンベル、それにケヴィン・スミスといった他のアメコミクリエイター達が疑問と抗議の声を上げ始める。

 マックスの処分にはキーヤ・モーガンという人物が関与したとされている。芸能人の遺品などを扱うディーラーとして知られる彼は、最近スタンの伝記映画を制作したいとして彼に急接近していた。
 一部ではスタンが外部との連絡手段を取り上げられてしまったという話も報じられ、ファンの間で彼を危惧する声が聞かれるようになったのもこの頃である。

異変

 これらの人事異動が取り沙汰されてしばらく、スタンは4月始めに催されたシリコンバレーコミコンで久々に公的な場へ姿を現す。

 だが多くのファンが彼の”異変”に気付いた。
 長年側近として務めてきたマックス・アンダーソンの姿はなく、代わってスタンの隣にいたのはキーヤ・モーガンであった。
 そしてサインを求めるファンの行列に応えるスタンは終始ぐったりと疲れた様子で、 SNS に投稿された写真にもお馴染みの明るい笑顔はなかった。

 またこの時、海外コミックニュースサイト BLEEDING COOL リッチ・ジョンストンが当時スタンとの不仲説や金銭トラブルの噂が出回っていた娘の J.C.リーと2度の接触に成功し(ただし少なくとも1度目は電話)、その様子を報じた。

 最初のインタビュー時は父との軋轢に関する噂や彼が外部との連絡を絶たれているという噂を払拭するなど好意的な態度だったのに対し、二度目の接触では老齢の父の前に長い行列ができていることや自分が父から遠ざけられたことなどについて言及するなど憤慨した様子だったという。

 こういった報道についてキーヤ・モーガンは反論を公表。
 行列への対応はスタン自らが望んだことであること、またイベントでは終始一貫して十分な医療サポートを準備していたことなどを述べた。自分の名前の綴りさえあやふやなスタンにスタッフが指示しているように見えるのも、実際は彼に対するサポートだとしている(現在のスタンは大部分の視力を失っている)。

法的措置へ

 そんな物議を醸すイベントが終了して数日後、 THE HOLLYWOOD REPORTER 紙がある文書の存在を報じる。
 それは今年2月にスタンが入院した直後に当時スタンの顧問弁護士だったトム・ロラスが役所に提出したというスタンの陳述書であった。

 文書の内容はスタンの娘である J.C. リーの浪費癖に関連して親子の間では金銭を巡るトラブルが発生しており、 J.C. がスタンに対して虐待行為に及んでいるというもの。
 また同じ文書ではそんな J.C. の行動に以下の3人が関与していると記す。
 
 1人目がジェラード・”ジェリー”・オリヴァレス
 スタン、 J.C. らと共に『ハンズ・オブ・リスペクト』を設立した中心人物の1人。別の報道ではスタンの血液を無断採取してファン向けのプレミアアイテムを作ったとも言われている(オリヴァレスは行為こそ認めているものの、スタンの許可があったものと主張)。
 
 2人目がこれまでで既に登場しているキーヤ・モーガン

 そして3人目が J.C. の顧問弁護士であるカーク・シェンク。陳述書によると彼は J.C. と共に突然スタンを訪問し、金銭を要求したという。

 おそらくこの陳述書に現在スタンの側近を務めている筈のモーガンが名を連ねている点が一部世間の混乱を招いたものと思われる。


 さて、 THE HOLLYWOOD REPORTER 紙の報道を察知したモーガンらは先手を打ち、同誌ウェブサイトと TMZ にスタン本人が出演する動画を送る。
 スタンはそこで娘やモーガンとの不和を全面否定。上の陳述書についても元弁護士だったトム・ロラスが自分の預かり知らぬ場所で作成したものとし(ロラス自身はこれを否定)、こうした偽りの情報を広めようとする者達に対し法的手段に打って出る構えを示した。
 ただしここで注意すべきなのはここでスタンが虐待を否定はしていないということ。
  TMZ など一部報道の記事ではこの動画でそれっぽい発言があったかのように書かれているが、実際の動画では「虐待( abuse )」という類の言葉は使われておらず、表現がぼやかされている。
 このため一部ファンの間ではスタンが正確な情報を受け取っていないのではないかという説も。

 さらに間もなくしてスタンは陳述書に挙げられた3人のうちの1人、ジェリー・オリヴァレス(と他25人)に対し訴訟を起こす。
 訴状の内容はオリヴァレスはスタンの妻ジョーンが亡くなってすぐ、未だ動揺していた彼から金を騙し取ろうと人事に介入したり書類を偽造したりしていたとして、損害賠償を求めるもの。
 昨年暮れに『ハンズ・オブ・リスペクト』へ渡った$300,000の小切手もオリヴァレスが偽造したものなら、2017年にスタンのグッズを管理する「パウ!エンターテイメント」が中国系企業へ売却されたことも彼がスタンの許可なく話を進めたとも記されている。

 後日、オリヴァレスはこれらの訴えを全面否定。一連の動きはスタンをパウ!エンターテイメントなどから切り離して彼を自分の思い通りにしたいキーヤ・モーガンの謀略であるというコメントを発表した。
 だがスタンらは先月半ばにパウ!エンターテイメントにも損害賠償を求める訴訟を起こす。


 またこういった法的な動きと前後してスタンはツイッターで”自身の”ツイートを発信。フェイスブックを始めとした他のSNSは何者かにより乗っ取られてしまったとして SOS を求めると共に、ツイッターでの発信だけが自分の真実を告げていると述べる。

 しかしこのアカウントもまた政治的な中立性を欠いた発言を行う、過去のツイートを削除したりフォローを大量解除したりする、まだ元気だった頃に撮った数年前の写真をまるで最近撮ったかのように投稿するなど、不審な点が多い。


時系列が前後するなどして話が複雑になってしまったので一度ざっくりまとめてみよう。


1)昨年7月にスタンの妻ジョーンが死去。スタンの身の回りで金銭トラブルが発生するように。

2)2月ごろ。スタン、肺炎で一時入院。同じ頃、当時スタンの顧問弁護士だったトム・ロラスが娘の J.C. リー、それにジェリー・オリヴァレス、キーヤ・モーガン、カーク・シェンクの3人を糾弾する陳述書を提出。

3)陳述書提出直後、スタン周辺の人事が大幅に変更。ロラスを始めとしたスタッフの多くが解雇(モーガンと J.C. が主導?)。
 特に長年ツアー・マネージャー兼ボディーガードを務めてきたマックス・アンダーソンの解雇はアメコミ界隈で大きな話題となる。

4)4月、モーガンらに付き添われ久々に公の場に姿を現したスタンの疲れぶりがファンの間で話題に。
 また J.C. もスタンから遠ざけられたと証言。

5)同月、2月に作成した陳述書の内容が公に。モーガンはこれに対し、スタン自ら疑惑を否定する動画を提出。陳述書もロラスが勝手に作成したものとその内容を否定する。

6)間もなくスタンがオリヴァレスに対し、虐待などの被害に対する損害賠償を求める訴訟を起こす。また1ヶ月後には自身のグッズなどを扱うパウ!エンターテイメントにも同様に訴訟を起こす。
 オリヴァレスはこれらの非難を全面否定。全てキーヤ・モーガンの仕組んだことだという見解を示す。

7)これと前後して4月中頃にスタンのツイッターが復活。他のSNSは乗っ取られており、これだけが自分の発言だと述べるが、日を経るにつれ不審な点が相次いで見受けられるように。

8)5月30日、スタンの自宅付近に銃を所持した2人組が出現。幸いスタンは無事に避難し、2人組もその後警察に確保されたという。金銭トラブルをほのめかしたとも言われているが、スタンは彼らに面識がないという。
 一連の騒動との関連は不明。←今ここ。

私見

 ややこしいややこしいややこしい……。
 時系列はあちこち飛ぶわ、確かな情報は少ないわで全容を把握するのに結構骨が折れました。情報を掲載しているメディアでさえ偏っているものがあるからどれを信じて良いかわからず……。

 最初にも述べたけれど、あんまこういう芸能記事みたいの書きたくないんですよ。結局ゴシップには違いないし。
 ただまあ一方でスタン・リーが現在のアメコミを築いた立役者の1人であることは否定できない以上、何もしないのもコミック読者の端くれとして後味悪いし、せめて日本のファン向けに事態を整理した記事でも書いてみようか……というわけで結構四苦八苦して書いたものですが、あるいは不正確な情報とかあるかもしれないので鵜呑みにしないで頂けると有り難いです。
 また今回の記事はかなり中立的な立場で書いたつもりだなものの、もしかすると偏っているように読める表現があるかもしれません。言葉のアヤということでご容赦を。

 元気なように見えるものの、スタン・リーも現在95歳。とにかくいち早くこのトラブルが解決して彼が平穏に過ごせるようになってほしいものです。

 
なお、今回の記事では BLEEDING COOL 、DAILY MAIL、THE HOLLYWOOD REPORTER、TMZ、POLYGON などの報道を参考にしました。
 
特に POLYGON の以下の記事は大変参考になったのでさらに深く知りたい人向けにリンクを掲載しておきます。

www.polygon.com