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ヘルボーイを深く読むための基礎知識 世界観編

 お久しぶりです。ツイッターからの戦略的撤退を告げてからまたしばらくこちらのブログを放置してました。態勢を立て直すべく色々と作戦を練っていた・・・と言いたいものの、実際は単に好き勝手読み散らかしてたら記事にできるネタがなかっただけでして。
 いやあ系統立てて読むのって大切ですね。

 さてさて気がつけば9月ももう半ば。
 映画、特に国内の映画事情に私はあんま詳しくないので月末にヘルボーイのリブート版新作映画が公開されることに気づいたのもつい最近。本ブログでコミックの感想記事でヘルボーイ、及びそれと世界観を同じくするいわゆる”ミニョーラバース”(名前の由来はヘルボーイの原作者であるクリエイター、マイク・ミニョーラです。念の為)関連作について書いたものが多いことからもわかってもらえると思いますが、私はこれらの作品群が大好きで、以前から本ブログでも解説記事みたいなものを作りたいとは思ってました。

 で、映画の新作もやるし、折しもコミックの方では B.P.R.D.:THE DEVIL YOU KNOW の完結をもってミニョーラバース全体が1つの節目を迎えたところなのでここらが良い機会だろうと久々に筆を手に取った次第です。


Hellboy: 25 Years of Covers (English Edition)

 まずヘルボーイについて、みなさんはどれだけご存知でしょう?


 1944年、敗色濃厚となったナチスが起死回生を図るべく怪僧ラスプーチンの手を借りて魔術儀式を執り行うという『ラグナロク計画』。だが、これを事前に察知した米軍はオカルトの専門家であるトレヴァー・ブルーム教授らと共に事態へ対処することに。
 やがて儀式が始まるものの、ナチスが望んでいたような“奇跡”は起きず – しかし同時刻、別の場所にいたトレヴァーらの目の前には真っ赤な体躯の赤ん坊が出現する。トレヴァーはこの子供を「ヘルボーイ」と名付け、自らの手で育てることにする。
 時は経ち、現代。
 成長したヘルボーイは教授が長官を務めるオカルト事件対策研究組織 B.P.R.D. のトップエージェントとして世界中で起こる様々な事件に対処するように・・・

 というところまでは映画などから多くの方がご存知のハズ。

 でもその先にある諸事情。例えばナチスがラスプーチンに協力を仰いで執り行った『ラグナロク計画』。これが結局どういうもので、どうしてその結果ヘルボーイが出現したのか?そしてこれがその後の世界にどう影響したのか・・・など、いざ聞かれたら結構ぼんやりって方も多いんじゃないでしょうか。

 ミニョーラバースではどちらかといえば”今ここ”で起こっている内容を重視する傾向があり、こうした背景事情については断片的にしか語られない上にさして意識しなくと勢いで読めちゃうようなところもあります。

 でもこのあたりの知識を備えているのといないのとでは読み込みの深さが段違いに変わってきます。個人的にはとりわけ HELLBOY IN HELL なんか結構差が出るかと思います。

 そんなわけで今回はヘルボーイとミニョーラバースの世界観について、その成り立ちからざざざっと解説してみたいと思います。

 なお、ネタバレは常識的な範囲に留めるつもりですが、20年近い歴史を持つサーガを語る上で必要に応じそこそこ突っ込んだことも解説していくつもりですのでご了承下さい。

1.世界の起源


Hellboy: The Island #2 (English Edition)

 ミニョーラバースを正しく理解するためには世界の起源まで遡る必要があります。
 
 最初に“神”と呼ばれる存在がいました。ちなみにこの神自体は "SELF-CREATION" 、つまり自己創造の存在だそうです。
 精霊を生み出した神は、その中の特に優れた者達に同じく生み出して間もない世界の管理を司るよう命じます。この世界の管理を任された精霊達のことを“ウォッチャー(番人)”と呼びます。

 当初こそ与えられた務めを粛々と果たしていたウォッチャー達ですが、時が経つにつれて徐々に慢心を抱くようになります。そして遂にアナム(Anum)というウォッチャーが神から創造の火を盗み出し、自ら新たな存在を生み出すに至ります。
 このアナムによって泥から作り出された7体の竜のことをオグドゥル・ジャハド(OGDRU JAHAD)といいます。
 
 他のウォッチャー達もアナムに与してオグドゥル・ジャハドに生を与えようとしますが、当初それは微動だにしませんでした。
 しかし、太陽が沈み夜になると闇が染み込んだことでオグドゥル・ジャハドは遂に動き出します。

 ところがウォッチャー達の意に反し、動き出したオグドゥル・ジャハド達はオグドゥル・ヘム(OGDRU HEM)と呼ばれる369体の眷属を生み出し、これを世界に解き放ちます(これ故、地球で最初の生命はオグドゥル・ヘムだと言われている)。
 ウォッチャー達は怪物だらけになってしまった世界に恐怖し、これを駆逐すべく被造物であるオグドゥル・ジャハドとの戦争に突入します。

 戦いはウォッチャー側が勝利し、オグドゥル・ヘムは一掃され、オグドゥル・ジャハドもアナムの手により封印されます。
 が、他のウォッチャー達はさらに騒動の元凶である同志アナムへも攻撃の矛先を向け。結果、アナムはその存在を完全に消滅させられてしまいます。

 オグドゥル・ジャハドを創造し、後に封印したその右手を除いて。


B.P.R.D. Hell on Earth #135 (B.P.R.D.: Hell On Earth) (English Edition)

(画像は封印されたオグドゥル・ジャハド。突き出している7本の石柱に1体ずつ閉じ込められている)

 さて、この一連の流れを見た神は当然ながら大激怒。
 ウォッチャー達への罰として、その大半を地下へ追放すると共に残りの者に対しては地上に留まり怪物(オグドゥル・ヘムは駆逐されているのでこれらは神が罰のために用意した別物かと思われる)の飼育役を命じます。

 この頃になると混乱も収まり、ウォッチャーよりも格下だった他の精霊達も徐々に形をなすようになってきます。
 その中には地上に根付いて最初の人類になっていくものも。
 
 この最初の人類ですが”ハイパボリア人”と呼ばれる連中で現在の人類と直接的な結びつきはありません。”ハイパボリア人”の文明は現在の人類が登場する遥か以前に滅亡しており、前者の衰退期と後者の黎明期が多少重なっている程度と言われています。
 ちなみにハイパボリア文明の滅亡にはミニョーラバースのキーパーソンの1人であるヘカテーが関わってきますが、そこまで突っ込むと話が脱線気味になるので今回は省略(そのうち余裕とやる気がでたら別の場所で解説するかも)。

2.地獄の誕生


Hellboy in Hell #10 (English Edition)

 ウォッチャー達の失墜から時は経ち、地上には様々な精霊や生き物が登場します。中でも特に頭角を現し始めたのが人間(おそらく先述のハイパボリア人ではなく現在の人類)です。

 前項で神からオグドゥル・ジャハド創造の罰を与えられたウォッチャー達に関して、地下に追放された者達地上に留まった者達とに分かれたことについて述べましたが、この後者を始めとして精霊などの中から新参者の人類が優位な扱いを受ける状況に不満を抱く連中が出始めます。
 そうして遂に地上に残った他のウォッチャーやその配下の精霊を指揮し、サタンと呼ばれる者が神に対し反乱を起こします。

 このサタンというウォッチャーが反乱を起こし、その結果敗北した彼とその部下達が地下に追放された経緯は『失楽園』などでよく知られているとおりです。

 さて、サタンらが降りてきた地下世界には既に先客がいます。

 そう、オグドゥル・ジャハド創造の罪で先に地上から追放された元ウォッチャー仲間で、今はプルートゥと呼ばれる者が統べている連中です。

 この先にいたプルートゥ派と後から来たサタン派との間で地下世界の覇権を巡ってまたも戦争が起きます。
 結果、プルートゥ派が敗北。ただ1人脱出に成功し以後冥界の奥深くに身を隠すプルートゥ本人を除いて、捕らえられた敗兵の多くは鎖に繋がれてあるいは地下世界に築かれた王宮”パンデモニウム”を支える人柱にされ、あるいは永遠にその軍勢を作らされ続けることに。

 地獄の誕生です。

3.悪魔アザエルとアナムの右手


Hellboy in Hell #3 (English Edition)

 さて、こうしてサタンが名実共に支配することになった地獄ですが、何を考えたのか彼は早々に玉座を放棄、長い眠りについてしまいます。
 地獄は有力者の間で分割統治される形になりましたが、裏では地獄の覇権を巡って互いをにらみ合う時代が長く続いていたようです(ここ、はっきり言及されている箇所が見つからなかったので曖昧な言い方で濁しとく)。

 この覇権争いの有力候補の1人にアザエル(AZZAEL)という者がいました。
 彼は何らかの経緯で(現時点では作中において語られていない)かつてオグドゥル・ジャハドを作り出したウォッチャー、アナムの右手を手に入れます。

 この右手は大きく2つの力を備えています。
 1つはかつて同じ手で封印したオグドゥル・ジャハドを解き放つ力。そしてもう1つは、地獄の支配権を巡る争いで勝利したサタン派が敗北したプルートゥ派に作らせている無数の兵に命を吹き込む力です。
 特に後者に関して、この命を吹き込まれた軍勢には地獄の壁を破壊し、悪魔を地上に復活させることさえ可能だと言われています。
 故にこのアナムの右手を使役する者は無敵の力を備えることになるため、実質地獄の新たな支配者になるというわけです。

 アザエルは地上の魔女との間にもうけた1人の赤子の右腕を切り落とすと、そこへアナムの右手を移植します。

 ここまで言えばもうおわかりでしょう。
 このアザエルの子供というのはアヌン・ウン・ラーマ(ANUNG UN RAMA)、つまりヘルボーイのことであり、彼の籠手のような右手はウォッチャー、アナムのそれを移植したものなのです。

 故にヘルボーイの籠手アナムの右手であり、オグドゥル・ジャハドの封印を解く鍵であると共に、地獄に眠る無敵の軍勢を操る魔具、そして悪魔アザエルの後継者として新たに玉座に着く者の証というわけです。

 他の悪魔達はアザエルの凶行ともいうべき行いを察知し、彼のもとへ攻め入るものの時既に遅し。ヘルボーイは「ラグナロク計画」により既に地上へ現界させられていました。アザエル自身は捕らえられ、生きたまま永遠に氷漬けにさせられてしまいます。
 
 ところでアザエルとの間にヘルボーイという子をもうけた魔女ですが、彼女はサラ・ヒューズという人物で実はとある家系の末裔です。故にその子供であるヘルボーイには地獄の玉座とは別にもう1つ”宿命”が与えられているわけですが、ここらへんもヘカテーの部分同様、若干脱線気味になってしまうし、 HELLBOY シリーズを読んで知っていただいた方が面白いと思うので伏せときます。

4.ラグナロク計画


Rasputin: The Voice of the Dragon #1 (English Edition)

 さて、ここまでの世界観を踏まえた上で、いよいよラグナロク計画の話です。

 そもそも何故ラスプーチンがナチスの協力者として登場したのか?今じゃ「そういうもの」として受け入れているものの改めて考えると結構突拍子もないような気がしないでもありません。

 多くの方がご存知の通り、一般的な歴史書ではグリゴリー・ラスプーチンは帝政ロシア末期に暗殺され、死亡したと書かれています。

 しかし、ネヴァ川に水底に沈められた彼は死の間際にオグドゥル・ジャハドと邂逅します。

 アナムの右手により宇宙の混沌に封印されたオグドゥル・ジャハドですが、完全に影響力が途絶えたわけではなく歴史上で度々地上や人類に対してアプローチを仕掛けてきていました。
 ラスプーチンもまたその1人として選ばれ、オグドゥル・ジャハドによってもたらされる新たな世界のヴィジョンを見せられます。

 その後、(オグドゥル・ジャハドの力によってか自身の力でか)復活した彼はイタリアに潜伏し、オグドゥル・ジャハドの求道者としてその教えを広めていました。
 そんなある日、オカルトの力を利用しようとするナチスドイツが彼に協力を煽ぎます。

 ラスプーチンはこれに同意するふりをして、実際はそれに乗じてオグドゥル・ジャハドを復活させようと誘いを受けることに。

 故に彼が主導した『ラグナロク計画』というのは、表向きこそ「ナチスが不利な戦況を打破するために奇跡を起こす」という触れ込みだったものの、本当は「オグドゥル・ジャハドの封印を解いて世界を次の段階へ移行させる」ことを目的とした儀式だったわけです。


Hellboy: Seed of Destruction #1 (English Edition)

 なのでオグドゥル・ジャハド復活の鍵であるアナムの右手、それを身に宿したヘルボーイを現界させたという点においてラグナロク計画は十分成功したといえます。
 もっと言えば封印自体にも多少ヒビが入り、オグドゥル・ジャハドが世界に対する影響力を強めることができるようになった結果、後にヘルボーイと戦うニムエなどに干渉できるようにもなったので御の字といえるでしょう。

 ただ唯一誤算だったのは、トレヴァー・ブルームを始めとした連合国側のオカルト専門家達、あるいはヘルボーイの母で死の直前に改心した魔女サラ・ヒューズの子息達の介入によってヘルボーイがラスプーチンのすぐ近くに現界しなかったこと。これによってラスプーチンが目指す新世界の到来はまたしばらく延期になります。

 中止でなく、延期になっただけですが・・・。


 以上がヘルボーイ及びその関連作であるミニョーラバースのざっくりした背景となります。改めて眺めるとかなり複雑で壮大な物語なんですね。
 しかし、これさえもまだミニョーラバースの一部に過ぎません。現にここまで語ったことのほぼ全てがヘルボーイ第1作以前に起こったできごとなわけでして・・・。

 それでもこのあたりの知識を頭に入れておくだけで作品の理解度は結構変わってくると思います。

 なお、今回の記事を作成するにあたっては上で紹介している
HELLBOY: SEED OF DESTRUCTION
HELLBOY:THE ISLAND
HELLBOY IN HELL
B.P.R.D. HELL ON EARTH: COMETH THE HOUR
RASPUTIN: THE VOICE OF THE DRAGON
などを参考にしています。興味が湧いた方は以下の単行本などを是非読んでみて下さい。


Hellboy Omnibus Volume 1: Seed of Destruction


Hellboy Omnibus Volume 2: Strange Places (Hellboy Omnibus: Strange Places)


Hellboy Omnibus Volume 4: Hellboy in Hell (Hellboy in Hell Omnibus)


Rasputin: The Voice of the Dragon (English Edition)


B.P.R.D. Hell on Earth Volume 5

 今回は世界観編としましたが、今後ヘルボーイ以外のミニョーラバース作品に関する紹介記事なんかもあげてみようと思います。

 それではまた。