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4 KIDS WALK INTO A BANK (BLACK MASK STUDIOS, 2016 - 17)

話題になるのも納得の秀作。


4 Kids Walk into a Bank

 12歳の少女ペイジと彼女の友人たちストレッチバージャー、そしてウォルターの4人。ある日、彼女たちがいつものように遊んでいたところ、これまた4人のごろつきがペイジの父親を訪ねてくる。
 彼らが出所してきた父の旧友であり、新たに銀行強盗を企ていることを知った彼女は、父が犯罪に巻き込まれるのを阻止するため自分達で先に銀行を襲撃してしまおうと他の3人へ提案するが……。


 現在、マーベルで『 ASTONISHING X-MEN 』『 PUNISHER 』などのライティングを手がけているマシュー・ローゼンバーグの出世作。刊行ペースはかなり不定期だったものの、エド・ブルベイカーやグレッグ・ルッカなどのクリエイターをはじめとして各方面から絶賛された。


 本作を刊行した出版社のブラックマスク・スタジオは社会性の強い作品を中心に手がけつつ、時に本作のような逸品を世に送り出しており、イメージなんかが最近他社で既に名の売れたクリエイターによる作品が多くなってきている中、生々しい才能を見出すことができる地味にやり手の新鋭出版社として個人的に注目している。

 余談だが、一時爆発的に増えたインデペンデント系出版社やレーベルはある程度出揃ったようで、少しずつそれぞれの独自色を醸し出す段階に突入したようだ。今後淘汰される段階に突入すると版権などがうやむやになってしまう場合もあるので、気になる作品がある場合は早めに入手しておいた方が良いだろう。


 さて、本作は仲良し4人組が引き起こす騒動を描いた青春ものだ、と言えばおおよそどんな雰囲気かはわかっていただけると思う。小中学生が死体を探しに行ったり廃工場に立てこもったり宇宙人をカゴに載せた自転車で空を飛んだりする作品群に共通するあのノリだ。最近だと異次元の怪物に攫われた友人を助けるためにエスパー少女とあれこれするのもあったっけ。

 
 こういった冒険混じりの青春を描いた作品に登場する「コドモ」とは、リアルにそこらを駆け回っている「児童」とは異なる。
 どちらかと言えばファンタジーに登場する妖精やモンスターの方が近く、未熟であることに基づいた行動性や発想力を備えつつ、物語を破綻させてしまうほどには幼稚でないキャラ付けが必要となり、成熟度のさじ加減を少し間違えるだけで半端ない違和感が生じる。しまいにはその”純粋さ(笑)”に「作り手の理想とする子供像」が透けて見える作品が多い。

 そんな中、ローゼンバーグの紡ぐ子どもたちは適度に生意気で馬鹿っぽいながらも鬱陶しさがない。それぞれ特徴的な4人の展開する小気味良い台詞回しもあって、スイスイ読み進むことができた。

 多分そこには本作が犯罪物としても成立していることが作用しているものと思われ、「法に触れる行為を実行する」という反社会性を含むという点において全体として大人っぽい緊張感を孕んでおり、4人の子供たち - とりわけペイジとストレッチ - の適度な成熟を許している。

 逆に大人を主役にした犯罪物では中々味わうことのできないユルさも本作の魅力となっており、青春物と犯罪者がこのように補完し合えるのだというのも発見だった。

 
 また、本作の魅力といえば作画を担当したタイラー・ボスによるコマ割りも忘れてはならない。彼のグリッド形式(均一な四角いコマを配置したコマ割り)や大きな見開きなどで物語のテンポを絶妙に調整していく演出力は見事だ。おそらく四角いコマを使ってできる演出はほとんど網羅しているのではないかと思うほどに多数の工夫が凝らされており、何度も読み返すたびに新たな発見がある。クリエイターなんかは読んでみると得るものが多いだろう。

 
 変化球のようで直球。実験作のようでエンターテイメント。
 コミックという媒体の新たな可能性を見せつけてくれる作品だった。

 最近、本作のクリエイター陣が再結集し、新たな作品を手がけることが明らかとなった(本作の続編という噂も?)ので嬉しい限りだ。


4 Kids Walk Into A Bank #1


4 Kids Walk Into A Bank #2


4 Kids Walk Into A Bank #3


4 Kids Walk Into A Bank #5