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アメコミ雑記:「マーベルはDCよりも現実的」という俗説

 「マーベルはDCよりも現実的で読者が共感しやすい」 — マーベルとDCを比べる際によく言われることだ。つい最近も『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』に関する話題を取り上げた新聞記事で専門家っぽい人がそう解説しているのをみかけた。

 正直この手の言説を見る度にもやっとする。

 何でかっていうと、マーベルの魅力とやらを語るときにほとんどの人が口を揃えて同じことをいうから。
「現実的」「リアル」「現実に根ざした」「地に足の着いた」「共感できる」「読者と同じ」「感情移入しやすい」等々……ニュアンスの違いこそあれ本質的な違いはない。
 これだけ皆が口を揃えて言うとまるで何かのプロパガンダみたいで不気味でさえある(実際、このフレーズ自体スタン・リーがDCをディスるのによく使っていたのがいつの間に一般常識として定着してしまったようなところがないでもないし)。
 

Stan Lee's How to Draw Superheroes: From the Legendary Co-creator of the Avengers, Spider-Man, the Incredible Hulk, the Fantastic Four, the X-Men, and Iron Man

 しかもこういうことを言う人に限って写真越しで見たかせいぜい旅行で訪れたことくらいの癖に「ニューヨークという舞台に親近感が湧く」なんて物知り顔で言ったり、「ブルース・ウェインは大金持ちだけどピーター・パーカーは普通の高校生」なんてトンチンカンな比較例を挙げてくる。ブルース・ウェインと比べるならせめて同じ大富豪のトニー・スタークにしろよ、と。

 別に人の意見は人の意見なのだしどうでもいいと言えばそれまでなのだが、終いにはそこそこ著名なアメコミ系評論家までこの手の論を振り回してくるから異論の一つも唱えたくなるわけで。
 
 マーベルがDCよりも現実的だという考えているような人は大抵比較する対象が間違っている。
 DCとマーベルはスタートラインが異なるのだということを忘れてはならない。

 DCの代表キャラであるスーパーマン、バットマン、ワンダーウーマンは全員ゴールデン・エイジ、つまり1930年代から40年代にかけて生まれたキャラクターだ。


Superman: The Golden Age Vol. 1 (Superman The Golden Age)

 対してマーベルはといえばゴールデン・エイジにもヒューマン・トーチ(ジム・ハモンド)やキャプテン・アメリカといったスーパーヒーローは確かに存在していたいものの、その多くは40年代後半の衰退期に一度消滅しており、今のマーベルはジャック・カービィやスティーブ・ディッコが登場した60年代シルバーエイジにその歴史が始まったと言える。


Fantastic Four (1961-1998) #1 (Fantastic Four (1961-1996))

 この違いを認識しないまま、シルバー・エイジのファンタスティック・フォーとゴールデン・エイジのスーパーマンを比べたりするから前者の方が現実的だなどとちぐはぐな意見がまかり通ってしまうのである。
 時代を好きにピックアップして良いのであればDCだって『GREEN ARROW/GREEN LANTERN』で違法薬物や差別といった社会問題を大きく扱っていた時代や『 JUSTICE LEAGUE INTERNATIONAL 』でホームドラマみたいにメンバーが四六時中口論しているような時代もあった。
 逆にマーベルだって指パッチンで全宇宙の生物が半分になったりキャラが並行世界を行き来するようなこともしょっちゅうだ。今の『フレッシュ・スタート』にしてもやたらと宇宙ネタ多いし。
 結局この2社はお互いにどちらかがヒットを叩き出せばそれを研究して自社に取り込もうとしていたため、それほど差異はないのである。

 別にマーベルが嘘つきだとか、まして劣っているというつもりはない。
 しかし上でも述べたように「マーベルがDCよりも現実的だから共感しやすい」という文言はスタン・リーがDCをディスるのに多用していたものだということもあり、あまり聞いて気持ちのいいものでもない。
 マーベルがどーのDCがどーのと語るのは良いけど、巷で言われていることを鵜呑みにしないで、ちゃんと自分で作品を読んで感想を述べて欲しいものです、はい。


 えー、それで何でこの話しようと思ったんだっけか。ああ、そうだ。『 TERRIFICS 』の話をしようとしてたんだ。まあ、それはまたの機会があればでいいや。


The Terrifics Vol. 1: Meet the Terrifics (New Age of Heroes)