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快挙! Stan Sakai と彼の代表作『USAGI YOJIMBO』


Usagi Yojimbo: Book 1: The Ronin

 今朝のニュースでは是枝裕和監督がカンヌのパルムドール賞を受賞したことが話題になっているが、実は時を同じくして今日、アメコミ業界でも1人の日系クリエイターが快挙を成し遂げた。

  Stan Sakai が第1回 JOE KUBERT DISTINGUISHED STORYTELLER AWARD の受賞に輝いたのである。

  JOE KUBERT DISTINGUISHED STORYTELLER AWARD はゴールデン・エイジからシルバー・エイジにかけて活躍したアーティストであり、次世代クリエイターのために米国発のカートゥーン専門学校を創立したことでも知られる Joe Kubert の名を讃えた賞で今年から始まった。この賞は単に優れた作品を世に送り出しただけでなく、さらに業界全体の発展に寄与したクリエイターに対して送られる。

 そんな栄えある賞の第1回受賞者として選出された Stan Sakai 。京都生まれのハワイ育ちな彼は、最初コミックの文字デザインを専門に手がける”レタラー( Letterer )”という役職で業界入りした後、やがて自らアートやストーリーなども手がけてオリジナル作品を数多く発表するようになった。

 中でも彼の代表作である『 USAGI YOJIMBO 』は1984年に初めて刊行されて以来、現在まで実に30年以上継続している人気作品。中世の日本を舞台に擬人化動物キャラが縦横無尽の活躍するこの作品は、同時に日本の文化や逸話を当時まだ認知度が低かった米国社会に紹介したことでも知られている。
 同じく日本文化から多大な影響を受けている『 TEENAGE MUTANT NINJA TURTLES 』と共演することも多く、コミックでクロス・オーバーは勿論のこと、さらには本作の主人公であるミヤモト・ウサギがタートルズのカートゥーンにゲスト出演したことも。


Usagi Yojimbo/Teenage Mutant Ninja Turtles: The Complete Collection

 そんな『 USAGI YOJIMBO 』のあらすじは以下の通り。

 時は戦国時代、剣の名手ミヤモト・ウサギは主であるミフネのため刀を振るい数々の武勲を上げるものの、安達ケ原の戦いにおいて敵将ヒキジに主君を討ち取られてしまう。
 やがて訪れた太平の世。仕事にあぶれた多くの侍たちが盗賊やヤクザに身をやつす中、ウサギもまた浪人として各地を放浪していた。行く先々で彼を待ち受ける出会い、そして脅威とは……。


 映像にしろコミックにしろ、単純な絵面としての暴力表現というのはもう遥か前にピークに達している。
 かつては子供向けなら人を殴るだけでも作品が袋叩きに遭うような時代もあったが、世間の閾値は少しずつ上がってきて、今じゃゾンビだの巨人だのが人をパックンチョしても嫌悪されるどころかむしろ持て囃される時代だ。

 暴力の表現が最も映える”視覚”を主体としたテレビやネット、それにコミックなどの媒体が急速に普及したこの50年は、人々が受け取れる情報量が向上する度に映像作家や漫画家達がどこまでならエンターテイメントでどこからが悪趣味な表現なのかをチキンレース的に探り合う50年でもあった。
 その意味でメディアの歴史バイオレンス描写の歴史とニアイコールなのである。
 
 だが当然のように画面の中を血飛沫が舞い、臓物が飛び交う現在において、目の肥えた読者視聴者に対して単純に残酷描写を加算していくようなは最早限界に達しつつあるといえるだろう。
 無論、これは暴力描写自体の陳腐化を意味するものではない。暴力描写はむしろ今後もエンターテイメントの中心として進化を続けるだろう。
 ただしそれは以前のように「どこまでアリか」を探る直線的なものではなく、今後は「どう見せるか」という点を意識した多様性を帯びてくるだろうということだ。というか既に業界は大きくその方向へシフトしている。

 わかりやすいのがスーパーヒーロー映画だ。 MCU がグロさを抑えてスタイリッシュな方向を目指す一方で、『デッドプール』などはいかにコミカルに暴力を行使できるかに注力している。 DCEU のレーティング内で可能な限り過激な表現を追究する姿勢も間違ってはいないだろう(それが観客にウケているかはまた別問題として)。

 で、ようやく話を『 USAGI YOJIMBO 』戻すのだが、この作品は30年以上前に作品にして既にグロさをプラスしていく潮流には逆らった独自のバイオレンス世界を開拓している。
 つまり、それはマイナスの暴力だ。
 
 この作品はとにかく命が軽い。俎上で野菜でも切るかのようにサクッと生命が奪われ、それなりに重要なキャラクターであっても事前に死亡フラグが立つこともなければ、終わった後も結構トントンと処理されてしまう。

 親しみやすい絵柄と緩いノリのアクションに油断していたら、ふと気がついた時には背後に死屍累々の山が築かれているという有様だ。血をほとんど見せないという演出1つでこうも簡単に騙されてしまうものかと感心してしまうほどである。
 敢えて暴力を最小限の労力で見せることにより戦闘シーンに軽やかなテンポが生まれ、人間ドラマを際立たせる。
 本作はエンターテイメントとしての暴力、その極北を追求した作品といえるだろう。

 ……って、紹介のつもりが結局書評みたいになっちまったわい。

オススメの読み方

 シリーズ開始初期に何度か版元を変えた本作。

 一番最初に刊行したFANTAGRAPHICSの合本もまだ出回っているようだが、入手もしやすければそこそこ良い入り口になっているのは現在の版元DARK HORSEから刊行されている合本だろう。最新作も続々単行本化されている他、移籍後の初期作も合本数冊をまとめた『USAGI YOJIMBO SAGA』シリーズとして続々刊行されている。
 はっきり言ってそんなに難しいあらすじじゃないし、ある程度フォローは入るので安心して読むことができる。

 勿論、電子書籍であれば最初の最初から読むことができるためそちらで読むのもアリかと。


Usagi Yojimbo Saga Volume 1