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VERTIGO 復活なるか!? 『 SANDMAN UNIVERSE 』

 今年の3月に DC の VERTIGO レーベル25周年及び『 SANDMAN 』創刊30周年の記念企画として発表された『 THE SANDMAN UNIVERSE 』。
 オリジナル・シリーズの原作者である Neil Gaiman による完全監修の元、この世界観を引き継いだ新作4(+1)シリーズが今秋から刊行される予定で、つい最近各作品のアーティストが発表されると共にそのプレビューが公開された。

以下はDCの公式アナウンス
www.dccomics.com

こちらはアートのプレビューが見られるINVERSEの記事
www.inverse.com


  VERTIGO といえばかつてはインデペンデント系作品の代表的刊行元として業界の最先端を走っていたものの名物編集だった Karen Berger が去ってからというもの目覚ましい衰えぶりで、最近はこれといった話題作も出していない。そんな落ち目の VERTIGO が今再び黄金期の代表作を取り上げることに対して思うところがないではないが、折角なのでラインナップを1つ1つ眺めてみよう。

『SANDMAN』

 ラインナップを見ていく前に念の為オリジナルシリーズについて軽く解説しておこう。
 
 『 SANDMAN 』とは1989年から96年までDCコミックスで連載されたファンタジー作品で、今や世界的なファンタジー作家としても知られるイギリスのライター、 Neil Gaiman の出世作であると同時に代表作。 
 夢の世界を司る”ドリーム”ことモーフィアスが辿る数奇な運命を描いたこの作品は、その幾多の世界を股にかけた活躍や、”デス”を始めとした個性的なキャラクターが爆発的な人気を呼び、90年代の業界を代表する作品となる。

 93年にメインのDCユニバースとやや距離を置いた作品群をまとめた VERTIGO というレーベルが設立されると、その代表的作品としてラインナップを支えた。

 それまであまりアメコミに関心を抱いてこなかった女性読者層を開拓したことや、それまでリーフと呼ばれる薄い月刊誌で刊行するのが基本だった市場に数冊分まとめた TPB と呼ばれるペーパーバックの合本形態を広めたことで市場を大きく変えた作品としても知られる。
 2013年には前日譚『 OVERTURE 』が刊行され、こちらも好評を博した。

 稀に Gaiman の完全オリジナル作品と勘違いされることもあるが、一応今も DC ユニバースと緩く繋がっており、先日も『 DARK KNIGHTS: METAL 』に本作のキャラクターが登場して話題となった。

1.THE SANDMAN UNIVERSE

 ラインナップが本格始動する直前に刊行される特別号。
  Gaiman によるプロットを元に今後各シリーズのライティングを担うライター達がそれぞれのパートを手がけるプロローグ的内容になる。
 先日発表されたアーティスト情報によるとカバーを Jae Lee が、中身を Bilquis Evely が担当する。
 オリジナル『 SANDMAN 』のラストで新たに夢を司る”ドリーム”の座を受け継いだダニエル(元人間)が突如失踪したことに端を発し、様々な影響が出るところからそれぞれの物語へ分岐していくという内容になるみたい。
 
『 DARK KNIGHTS: METAL 』でもダニエルが失踪したが、本作がその展開と地続きなのか、あるいはまた別の物語となるのかはまだ不明。(『 METAL 』のライター、 Scott Snyder のツイートにより『 THE SANDMAN UNIVERSE 』で描かれることが判明。(18・5・18))


2.THE DREAMING

 ラインナップ第1弾のメイン・ディッシュ。

 『 THE SANDMAN UNIVERSE 』でダニエルが失踪したことにより夢の世界と現実世界に亀裂が入りトラブルが頻発。彼の配下や友人らが行方を探す一方で、新たに玉座を狙う者達も暗躍するという、オリジナル・シリーズの上半期を彷彿とさせる内容。
 カラスのマシューや執事のルシエン、カボチャ頭の用務員マーブなどお馴染みの顔ぶれが脇を固める他、羽の耳を持つ新キャラの姿も確認できる。

 ライターは Si Spurrier 、アーティストは上記『 THE SANDMAN UNIVERSE 』と同じ Bilquis Evely
  Spurrier はかつてイギリスの名物アンソロジー誌『 2000 A.D. 』で数多くの作品を手がけた他、本格的にアメコミ業界に参入してからは BOOM から『 SIX-GUN GORILLA 』や『 GODSHAPER 』といった独特の SF やファンタジーを精力的に発表している。スーパーヒーロー物でもプロフェッサー X の息子リージョンを主役に据えた2013年の『 X-MEN LEGACY 』シリーズなんかが高い評価を受けた。
 子供でも楽しめる作品から大人の感性に耐えうるものまで幅広い作風は Gaiman と似ているかもしれない。

  Evely のアートも悪くない。特にプレビューで見られるカインとアベルなんかはいい感じ。オリジナルシリーズで初期のアートを担当していた Sam Kieth のようなおどろおどろしさが見られればもっと良いかも。

 

3.HOUSE OF WHISPERS

 シリーズのラインナップ第2弾。他のシリーズが過去を大きく踏襲した作品であるのに対し、本作は新要素へ攻め込んだタイトル。

 既存のハウス・オブ・シークレッツ(”秘密”の館)とハウス・オブ・ミステリー(”謎”の館)に加えて、新たに加わったハウス・オブ・ウィスパーズ(”囁き”の館)とその管理人であるヴードゥー系占い師エジリーを中心とした物語。
 とある女性が昏睡状態の恋人を助けるために”囁きの書”なる魔導書を使ったことで引き起こされたトラブルを解決すべく、エジリーが夢の世界と現実世界を行き来する展開になるとか。

 ライターの Nalo Hopkinson はジャマイカ出身の作家で、これまで数多くの長編短編を手がけている。本作でもヴードゥーに対する造詣の深さなどを活かして、一風変わったファンタジーを用意しているという。
 個人的にはファンタジー全般は苦手なものの、何故かヴードゥーはそんなに苦じゃないのでちょっと期待している。

 アーティストの Dominike Stanton は DC が新たな才能を発掘育成すべく立ち上げた『 TALENT DEVELOPMENT WORKSHOP 』という企画のアート部門の卒業生で、今回が初めての本格連載作となる。


4.LUCIFER

 先日打ち切りの憂き目に遭ったドラマの原作でもあるオリジナルシリーズのスピンオフが復活。
 前シリーズは亡者を治めることに飽きたこと(と先代 Dream への嫌がらせ)から地獄の管理業務を放り出し現世にやって来たルシファーを主役に据えた作品。スピンオフの割に奮闘して#75までの長期連載を達成した実績もあるため、今回の新ラインナップに加えられたのも頷ける。

 今度の新シリーズでは何らかの理由で(強制?)帰還したルシファーが、かつて自ら作り上げた地獄に囚われるという幕開け。彼がどうして地獄へ戻ってきてしまったのか、そしてどうやって地上へ戻るかが描かれる。

 ライターの Dan Watters はアサシンズ・クリードのコミカライズなどを手がけた新鋭。おそらく本作が初の大型タイトルになるものと思われる。

 アートはファンタジーやホラーを中心に活躍する Fiumara 兄弟。シャープな表情と影が濃い独特のキャラクターが特徴的で一度見ると忘れない絵柄をしている。


5.BOOKS OF MAGIC

  Gaiman が『 SANDMAN 』と同時期に手がけていたもう1つの代表作を元にした新作。

 偉大な魔法使いとなることを運命付けられたハリー・ポッター似の少年、ティモシー・ハンター。自らの行く末に迷うティムに対し、彼を導こう利用しよう消しちまおうとする連中が色んな形でアプローチするという内容は新シリーズでも踏襲されるようで、今回は彼が通う学校の非常勤講師が接近してくるとか。禁断の関係は…まあ多分期待できまい。

  Gaiman によるオリジナルシリーズの後にも1度シリーズ化されている他、 NEW52 以降の DC ユニバースにもティムが登場したこともあったが、これらの設定がどの程度受け継がれるかは不明。多分ほぼ抹消されるものかと。

 ライターの Kat Howard はアンソロジー企画などで長年 Gaiman と交流のある作家で、コミックは今回が初めての挑戦となる。
 
 アーティストの Tom Fowler は代表的連載こそぱっと見当たらないものの、『 RICK & MORTY 』のコミカライズや MAD 誌などといったユーモア系の作品を多数手がけている。

 オリジナルシリーズは DC のオカルト界隈の案内図みたいな話で、色んな形の魔法や魔術師が手を変え品を変え登場するのが魅力的だった。今回もあまりファンタジーに偏らないバラエティ豊かな魔法業界を見られればいい線イケるんじゃないかと思う。

以下はオリジナルシリーズをレビューした過去記事。
www.visbul.com


…以上が新たなサンドマンの世界を彩る4+1のラインナップ。あるいは VERTIGO の行く末を左右することになるかもしれないこれらの作品。興味がある作品があれば是非とも読んで応援しよう。