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今週のアメコミ論壇時評:ヴァリアントカバー問題について

 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の熱狂ぶりに水をさすようで恐縮だが、今回のアメコミ論壇時評は最近『フレッシュ・スタート』でも話題になっているマーベルのヴァリアントカバー過剰供給問題について取り上げることにした。

 なお、当初本記事を書くきっかけとなった BLEEDING COOL の記事を参考リンクとして紹介する予定だったが、その後サイトにウイルス感染を装ってセキュリティソフトを売りつける悪質な広告が出現するようになったので(昨日休んだのはこれの対処に追われたため)今回は控えることにした。
 私だけかもしれないけど、同じサイトを利用してる人はちょっと気をつけてね。

1.問題点

 さて、”ヴァリアントカバー”とは簡単に言えば通常版とは異なるイラストを表紙にした特別版のことだ。中身は通常版と変わらない。

 ヴァリアントカバー自体は別にマーベルの専売特許ではない。 DC も IMAGE も普通にやっている。
 ではマーベルのヴァリアントカバーの何が問題かと言うと、大きく以下の2点が挙げられる。

1)単純にヴァリアントカバーの種類が多いこと

2)特定のヴァリアントカバーを入手するために通常版を一定数購入する必要があるということ

 つまり、品揃えを重視する店としてはヴァリアントカバーを全て揃えたいものの、そのためには通常版を(多くの場合予想される売上より)大量に注文しなければならないということである。

 1)だけならマーベルに限らず DC もついこの間 ACTION COMICS#1000 でヴァリアントカバーを大量放出していたし、 IMAGE も WALKING DEAD#100 なんかでやっていた。


 ただ人気のアーティストが描いた表紙はそれなりに需要があるし、褒められたものではないにせよこれだけならまだ許容範囲内だろう。
 マーベルの手法が問題視されるのはこれを2)と組み合わせることで需要に見合わない注文を店に強いるからだ。

2.マーベルの悪循環


 さらに言えば、上に挙げた2つの他社例は#1000なり#100なり、そう頻繁に達成できる号数ではないからマシなものの、最近のマーベルはやたらとナンバリングを#1に戻してはその度にこの手法を使うのでとりわけ嫌がられる。

 基本的にヴァリアントカバーというのはコレクター向け商品だ。マニアに同じ商品を何冊も買わせる効果はあるが、新規読者の開拓には大して結びつかない。
 そしてシリーズ創刊号である#1はコミックが最も売れやすい号と言われる一方で、それまで前のシリーズを読んできたファンが脱落するきっかけにもなりやすい。

 #1に大量のヴァリアントカバーを与えることは、そのマーケティングに反発する店や客からの注文を減らし、新しい読者に作品が届きにくくする。そしてその後のシリーズで売上が鈍ってくると、再びシリーズを新しくして既存読者から脱落者を出し、なのに#1に大量のヴァリアントカバーを与えるから新しい読者には届きにくく…と負のスパイラルに陥ってしまっているのがマーベルの現状だ(勿論、これは問題の焦点をヴァリアントカバーに絞った上でかなり単純化している)。
 トップランナーであるマーベルが経済力のあるコアなファンにその売上の一部を依存していることは業界全体にもよろしくない。

3.対処法


 ではこの問題にどのような対処が考えうるだろうか。

①単純にヴァリアントカバーによるマーケティングを撤廃する

 まず単純にヴァリアントカバーを減らし、とりわけ需給状況に合わない注文を店に強いるような2)のマーケティングは撤廃するべきだろう。

 実は現在 DC がこれに取り組んでいる。
  DC も今のマーベルほどではないにせよ、かつてイベントのプロモーショングッズを一定数以上の注文をした店にのみ配布するといったことをしていた時期がある。しかし、再び#1000の例で見れば、確かに DC はこの時大量のヴァリアントカバーを放出したものの、どのカバーも通常版と同じ扱いで注文できた。つまり通常版を10冊、ヴァリアントカバーを100冊という注文も可能だったわけである。
  DC はリバース以来、ストーリーもそうだがマーケティングの面でもかなり改善された印象がある。


②クリエイターが積極的に働きかける

 また、クリエイターが表紙もコントロールしてしまうというやり方もある。つまり、表紙を単なる看板としてではなく、中身と密接に関わる物語の一部として扱うという手法だ。
  Alan Moore が WATCHMEN で取った手法といえばわかりやすいかもしれない。あの作品は表紙が中身の導入になっていたため、ヴァリアントカバーが与えにくい作りになっている。(現在刊行されている DOOMSDAY CLOCK もこのスタイルを踏襲しているので買うなら通常版を買うことを強く薦める)。
 似たように Warren Ellis も PLANETARY ではカバーに逐一指示を出して John Cassaday による通常版以外はほとんどヴァリアントカバーを出さなかったとか。


③読者ができること

 読者としてはどうだろう。ヴァリアントカバーを買うなと言うのは簡単だが、こればかりは個人的な好みの問題だ。きちんとした形で売られている以上、他人がとやかく口を出すべきではない。
 なので、まず自分が好きな作品は使用している店の購入リスト( Pull-List )に加えてシリーズを支える、あるいはヴァリアントカバーが欲しい人は予約注文をする( Pre-Order )などという行動で小売店が卸業者へ発注をかける前に需要を伝えるなどといったことが重要となる。
 地味ではあるが誰も損はしない。こういった小さな行動からマーベルに変化を促すことが重要となるだろう。


 編集長も新しくなったことだし、マーベルに一日も早い状況改善を期待したい。