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THE BOZZ CHRONICLES (DOVER, 1985 - )


BOZZ Chronicles

 忘れられしスチームパンクの秀作。

あらすじ

 19世紀半ばのロンドン。娼婦として生計を立てている Mandy はある日、空き家で首を吊ろうとする怪人物と遭遇する。聞けば、遠い宇宙からやって来たまま帰れなくなり、この原始的惑星が退屈で憂鬱で死のうとしたのだという。何とか自殺を思いとどまらせた Mandy はその宇宙人 — Bozz — の気を紛らわせるため(ついでに自分の生活も良くするべく)、探偵事務所を開くことを提案。やがてとある事件で知り合った米国人 Hawkshaw も加わり、3人は奇怪な事件の数々に立ち向かう。

80年代ならではの意欲作

  E.T. にシャーロック・ホームズの格好をさせてドクター・フー方式で事件を解決させてみよう — BOZZ の出来上がりだ。
 19世紀の英国を舞台に、自殺願望のある宇宙人と優しく勝ち気な元娼婦、そして腕っぷしに自身のある青年が不思議な事件を解決するという、オカルトから SF まで何でもござれなスチームパンクらしい内容となっている。

 大手出版社内のクリエイター・オリジナル作品を専門とするインプリントといえば、 DC の VERTIGO が有名だが、実は MARVEL にもかつて80年代から90年代にかけてオリジナル作品を専門とする EPIC という部署が存在した。 X-MEN の Chris Claremont や INFINITY GAUNTLET の Jim Starlin など当時 Marvel で活躍していた著名なクリエイターのオリジナル作を刊行したり、 Moebius の作品群や日本の『 AKIRA 』といった国外の作品を刊行したりするなどかなり奮闘したものの、結局売上が芳しくないなどの理由から廃止された(商標登録の都合で EPIC は現在 MARVEL の旧作合本のレーベルとなっている)。

 本作はそんな EPIC インプリントから刊行された数少ない成功作の1つ。リーフわずか6冊という短さもあってか現在の知名度はやや低く、これまで単行本としてまとめられることがなかったが、2015年にようやく DOVER 社から刊行された。

 中身に関してはいかにも80年代と言った感じで、スチームパンクというジャンルもあってかスーパーヒーロ物ほどカラフルではないし、台詞にも時代を感じさせられる。
 しかし同時に、60年代以降業界を席巻していた Jack Kirby 風の絵柄から脱却していながら、だが90年代以降の異常な凝り方に進む前の過渡期としてのアートには洗練された趣がある。

 キャラクターやストーリーにしても、素朴で安っぽいところがある一方、今のコミックにはあまりみることができない正直さといおうか優しさが漂っている。


  BOZZ は業界に海外からの影響が流入し始めた頃の意欲作であり、まだ映像とは距離を置いていた頃の自由を維持している作品だ。ハリウッドを模倣しているような表情の固さはなく、整理されていない引き出しの中を覗くような面白さがある。

 奇妙で愉快でなおかつ心温まる冒険活劇である。


本作はこんな人にオススメ

・スチームパンクというジャンルが好き

・少し変わった作品を読んでみたい




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