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WILDSTORM: MICHAEL CRAY VOL.1 (DC, 2017)

 暗いカタルシスが味わえる逸品。


The Wild Storm: Michael Cray Vol. 1

 雇い主には裏切られ、脳には腫瘍が見つかり、さらにはよく分からない破壊能力まで身につけてしまった暗殺者 Michael Cray 。行き場を失った彼の前に現れた Christine Trelane なる女性にスカウトされ新たな職場にやって来た彼は早速最初のターゲットの名を告げられる — その名は Oliver Queen

  Warren Ellis の監修により昨年復活を果たした WILDSTORM 。本作はメインタイトルで International Operations を放逐された暗殺者 Michael Cray (旧 WildStorm ユニバースの Deathblow というキャラクター)の新たな活躍を描く。リーフ全12冊の本巻は前半部分。

  Ellis 監修の元、最近インデペンデント系タイトルを中心にキャリアを着実に積み重ねている Bryan Hill がライターを担当。アートには N. Steven Harris や Steve Buccelato らが携わっている。個人的にはどれも初めて聞く名ばかりだが、一方でカバーアートは Denys Cowan に Bill Sienkiewicz など80年代90年代からの名匠達が描いている。

 本作の魅力は何と言っても DC ユニバースに思い切り喧嘩を売っているという点だ。
 最初のターゲットは今やドラマなどでもすっかりお馴染みの Oliver Queen 。オリジナルより精神がだいぶ歪んでいるものの、そのキャラクターは紛れもなく私達がよく知る Green Arrow 。

  Queen だけではない。物語が進んでいくにつれお馴染みの赤いスピードスターや海の王様などが続々と登場する。無論、ワイルドストーム・ユニバースにおける彼らはオリジナルとは全くかけ離れた異常者として描かれているものの、普段「スーパーヒーロー」としての活躍を見ている彼らが本作で暗殺の対象とされるのを見るのは罪悪感と爽快感が入り混じってちょっと癖になる刺激だ。
 有名なヒーローをモチーフにしたキャラクターが悪役として登場するというのはEllisの代表作でもある PLANETARY でも見たことのある展開で、案外この辺りは「スーパーヒーローなんて現実にいたら変質者扱いが関の山だろ」という彼による言外の皮肉が込められているのかもしれない。

 また、実際にライティングを担当している Bryan Hill の手腕も見事だ。こういったスピンオフではどうしても表舞台とは離れたところでの活躍を強いられるため、何となく煮え切らない展開に陥ってしまう場合がままあるものの、本作はその限りでない。
 現在大きく物語が動いている本編 WILDSTORM では描ききれない世界観をしっかりと描いている他、 Cray と同僚とのまだ不信感の滲むやり取りにも高いレベルの技量が窺える。彼が担当している他の作品にも興味を唆られた。

 満足できる読後感であった一方、前半を終えた時点での正直な感想は「まだ本気を出していない」といったところ。 Cray の体に起こっている異常や、彼の新しい職場である Executive Protection Service に関してはまだ多くの情報が伏せられているし、アクションに関してもここまでの活躍ではまだ Cray の真の能力は半分も発揮されていない。
 最終的には DC のビッグ3も標的になるのかということも含め、今後目が離せないシリーズである。





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