VISUAL BULLETS

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LOBO: THE LAST CZARNIAN (DC, 1990)

ただの娯楽作?いやいや、実は歴史的にも一見の価値あり。


Lobo by Keith Giffen & Alan Grant Vol. 1

 故郷の惑星を滅ぼしてその最後の生き残りとなった賞金稼ぎLobo。訳あって宇宙警察組織L.E.G.I.O.N.のため働かなきゃならないし、自分の知らないところで自伝は発売されるし、とにかく苛立ちを募らせていた彼のもとにL.E.G.I.O.N.のトップVril Doxからある人物を(生きたまま)護送するよう命じられる。退屈な仕事にウンザリしながら出発するLoboだったが、その任務には隠された目的があった…。

 ヘヴィメタバンドのボーカルを思わせる出で立ちでバイクを乗り回すその姿はいかにも90年代を彷彿とさせる、宇宙一厄介な賞金稼ぎLobo。その独特のカリスマ性に心酔するファンも多く、NEW52で一度スリムなデザインに改変されたものの、激しいバッシングの末に無理やり元のいかつい姿に戻された騒動は記憶に新しい。
 本作はそんな彼が初めてソロタイトルを担ったミニシリーズ。Keith GiffenにAlan Grant、Simon Bisleyといったクリエイター陣の顔ぶれも90年代ならではといった印象だ。

 さて、頭空っぽにしても十分楽しめる本作だが、実は物語と絵と両方の面において特徴的な作品となっている。
 
 まずシンプルなのに密度の高いストーリー。
 依頼を受けたLoboがその人物をL.E.G.I.O.N.本部まで送り届けるだけという大筋はかなりシンプルだが、彼が頻繁に寄り道をしてはその先々で騒動を起こすために濃密な内容になっている。
 話の起承転結を意識して緩急を作っていく一般的なコミックに対して、この小刻みな山場を設けながら真っ直ぐ突き進んでいくという手法は、一見場当たり的にも見えるが、実のところ豊富なネタの引き出しが求められる、高いレベルの作劇なのだ。
 もっと言えばこの手法はどんなキャラクターにも適用できるというわけではない。例えばSupermanやBatmanのようなヒーローでやろうとすると、倫理的な制御が要されるため煮えきれない内容に終わってしまう。Loboのように殺人も厭わぬ、ハチャメチャな方向に振り切ったキャラクターでないと不可能だ。
 同じような手法を使っている作品にDEADPOOLや「マッドマックス 怒りのデス・ロード」なんかが挙げられることからもこの手法の絶大な効果が窺い知れるだろう。

 またアートに関してもページを開いて頂ければわかる通り、本作の絵はかなりラフな線画で成り立っている。
 アンダーグラウンド系のコミックならともかく、こういった歪んだ線は70年代80年代のDCやMarvelでは中々見ることができない。主流はすっと伸びた線を基調とする絵だった。
 しかしBisleyが担当した本作や、Sam Kiethによるオリジナルヒーロー作品MAXXなどの大ヒットによってポツポツとメインストリームにも見られるようになり、独自の進化を遂げていった。
 90年代のアメコミと言えば、これと同時期に生じていたRob Liefeldらによるエッジの利いた作画が代表として挙げられることがもっぱらだが、こちらの作風がその後急速に廃れていったのに対し、本作のような作画は今もあちこちで見受けられ、また更に洗練された形で浸透している。
 歴史的な価値という意味でも本作のアートは注目に値する。

 一見すると単なるドタバタ劇な本作だが、実は現在の業界を形作る先駆者だったのかもしれない。

 まあ、まずはごちゃごちゃ考えずに読んでみることをオススメといいかと。