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福音か破滅か!? MCUが10年でマーベル・コミックに与えた3つの変化

 今日はちょっとネガティブ強めなお話を。内容はあくまで個人的な感想で、本格的にデータ揃えたりはしていないのでそれを承知な方だけ以下どうぞ。

はじめに

 2018年4月現在。巷では劇場映画 AVENGERS: INFINITY WAR に対する期待が高まる中、やや憂うべき状況が生まれている。


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 現在の Marvel Comics (以下マーベル)にとって、2008年に公開された IRON MAN 以来展開してきたマーベル・シネマティック・ユニバース(以下 MCU )が語るに欠かせぬ存在となっていることは言うまでもない。MCUの作品群はコミックの過去作を下敷きにしつつ、だが原作とは全く異なる展開を見せることで、コミックを読む読まないに関わらず、幅広い層の観客から高い評価を得ている。

 さて、「コミック→映画」という回路は功を奏しているように見えるが、逆に「映画→コミック」という方向を考えた時、 MCU はマーベルにいかなる影響を与えたのだろうか。
 成る程、MARVELというブランドが世界中に知れ渡ったことである程度ラインナップは充実するようになったかもしれない。
 だが総合的に鑑みると、残念ながら現状のマーベル・ユニバースにとって MCU は必ずしも有益とばかりは言えないかもしれないというのが私の感想だ。

以下、特に目に付いた3点を挙げたいと思う。 

  1. 映像からコミックへの逆輸入
  2. X-Men と Fantastic Four の消失
  3. 映像作品に合わせた新シリーズの乱発

映像からコミックへの逆輸入

  MCU でコミックと異なる展開をしてウケた要素は少なからず原作であるコミックの世界へ逆輸入される。新規読者を開拓する上で当然の動きだ。

 物語の観点から見た時に MCU からダイレクトにヒットを受けたキャラクターは、間違いなく国際諜報組織 S.H.I.E.L.D. の長官 Nick Fury だろう。


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 念の為、まず映像かコミックかどちらかの彼しか知らない方のために述べておくと、「本当の」彼はコミックであれば白人、映像では黒人として描かれている。


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 そもそも原作で白人の彼が映像で黒人となったのは、2000年にマーベルで始まった「アルティメット・ユニバース」という世界観が由来だ。長い歴史の中で敷居が高くなってしまったメインのマーベル・ユニバースに代わって、新たな読者を獲得すべく始まったこのマーベル第2の世界では、21世紀の現代社会を反映した作風に合わせて、 Fury も多様性を意識した黒人として登場した。(ちなみにこの時にキャラクターのモデルとなったのは、後に MCU で Fury を務めることとなった Samuel L. Jackson だとか)。

 このアルティメット版 Fury が思いの外読者から受け入れられたため、 MCU の Fury も黒人として描かれることになった。
ここまではいい。

ところが、 AVENGERS の映画がヒットすると、マーベルの編集部は何を考えたのか、メイン・ユニバースの Nick Fury も黒人に変更できないかと画策し始めたのである。

結果として
1: 2012年に BATTLE SCARS というミニシリーズを刊行し、そこでオリジナルの Nick Fury に黒人の息子(以下 Jr )がいたことに。シリーズ内で Jr に眼帯を与えることで、見た目を映像版(アルティメット版) Fury とそっくりにする。


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2: 2014年のクロスオーバー・イベント ORIGINAL SIN (別名:ウォッチャー殺人事件)において、オリジナル Fury を S.H.I.E.L.D. から退かせることでマーベルの表舞台から消す。


Original Sin(Amazon合本)

3: 新長官にJrが就任。文脈に Jr をほとんど使わない演出により「 Nick Fury 」というキャラクターを黒人化。


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…という、何とも強引な方法で Nick Fury を黒人化してしまったのである。

  MCU で獲得した新規読者予備軍のハートを掴んでおきたいのはわかる。
 が、 Captain America や Wolverine にも腹を割って物が言える数少ない人物として、1963年から存在していた人気キャラにこの措置はあまりに酷だろう。
 当然ながらこれは白人 Fury 、黒人 Fury 両方のファンから非難を浴びたものの、現在までこの状況が改善される目処は立っていない。

 なお、 Fury ほど強引な方法は取っていないものの、 Hawkeye のユニフォーム変更や Groot の幼児化も MCU からの影響と言えるだろう。
 また、逆に映像の方がやや強引だったという意味では、ドラマ AGENTS OF S.H.I.E.L.D. の Skye がコミックに登場するエージェント Daisy Johnson(Quake) と結び付けられたというのが挙げられる。


X-Men と Fantastic Four の消失

 ある意味で Fury 以上に MCU から影響を受けたと言えるのがこの2チームだ。
 多くの方がご存知の通り、現在のところ X-men と Fantastic Four に関連するキャラは Scarlet Witch と Quicksilver を除いて MCU にほとんど登場していない。
理由は簡単、これらのキャラクターの映像化権が MCU を制作するに関してこれらはウォルト・ディズニー・カンパニーでなく、21世紀フォックスの手中にあるからだ。
 
 70−90年代に少なからずヒットを当ててきたライバル社 DC に対し、いまいち映像作品の人気が振るわなかったことで焦りがあったのかもしれない。
 理由はどうあれ、現在の MCU が形作られる前、マーベルはソニー・ピクチャーズ・エンターテイメントで SPIDER-MAN を作ったり、ユニバーサルで HULK を作ったりとあちこちに映像化権を散逸していた。
 結果、いざ MCU のような1つの世界観を構成しようとすると、あちこちの会社と権利交渉をする必要が生じてきたのだ。
 幸い Spider-man 系列キャラの映像化権を有するソニーとは交渉がすんなりいったものの、フォックスはと言えば、 X-men と FF の権利を中々譲ろうとしなかった。
  X-men と言えば、一時は廃業寸前まで追い込まれたマーベルで唯一人気を保ち続けたコミックだ。映像化すればどんな駄作だろうと観に来るコアなファンが大勢いる。
  Fantastic Four についても過去の映像作品は必ずしも成功しなかったものの、コミックでは現在のマーベル・ユニバースの基礎を立ち上げた先駆者として、崇拝しているファンは少なくない。
 そんな両チームが MCU に加われば、鬼に金棒だ。

 しかし、フォックスは頑としてクビを縦に振らない。特に X-men に関して言えば、既に独自の世界観を構築しており、それなりの収益を生むブランドと化しているため尚更だった。


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 これをきっかけに、キツネとネズミの間で板挟みとなった両チームは暗黒時代を迎えることとなる。
 つまり、業を煮やしたマーベルの上層部が、 X-men と Fantastic Four に関して一種の左遷を指示したのだ。次第にこれらのキャラクターは玩具などの商品ラインナップで影を潜めるようになり、マーベルヒーローが勢揃いするようなポスターを作る際にも、これらのキャラクターについては意図的に省くよう指示が送られたという。

 コミックでは2015年に(多少の再始動はあったものの)過去50年近く続いてきた FANTASTIC FOUR 誌が打ち切られ、 X-men もマーベル・ユニバースの隅に追い遣られるようになった(ライターの Jeff Lemire は最近のインタビューで、自身が X-men タイトルを担当していた当時、編集からかなり無理を強いられていたことを明かした)。


Fantastic Four (2014-2015) #645(キンドル)

 他方、 MCU でミュータントの代わりとして扱われるようになった Inhumans がやたらとプッシュされるようになり、多くの読者を辟易させた。インヒューマンズはミュータントと「特殊能力を有する種族」という以外にほぼ共通点がないことは、以前このブログでも記したとおりだ。

visualbullets.hatenablog.jp

 結果から言えばこの試みは失敗に終わり、コミックのみならず映像でも TV シリーズ INHUMANS は MCU の数少ない失敗作として視聴者の記憶に残ることとなった。


新シリーズの乱発

 これは何も MCU の影響だけではないものの、全く無関係とも言い切れないので敢えて書くことにした。
 昨今のマーベル・コミックについて、ファンが苦言を多く呈するところに仕切り直しの多さというのが1つ挙げられる。つまり、それまで続いてきたシリーズを一旦終了させて#1からナンバリングをやり直すことを頻繁にやるのだ。
 これはクロスオーバー・イベントに合わせて複数タイトルが一斉に行うこともあるため、一概に MCU の影響だけが原因ではないものの、劇場公開やドラマ放送開始に合わせて、映像作品から原作へ流入してくるファンが手に取りやすくなることを期待してナンバリングを一新するのはままあることだ。
 
 しかし、世間が映像作品で盛り上がっているタイミングで新シリーズを創刊することは、新規読者を開拓する上ではある程度有効な手段かもしれないものの、他方で往年のファンにしてみればコミックの内容に関係のないところで何十号何百号と積み重ねてきたものをチャラにされるのであまり良い気分がしない。
 にも関わらず、最近では人気タイトルでさえ#20かそこらで#1に戻ってしまうことがザラにある。


Invincible Iron Man (2008-2012) #1


Iron Man (2012-2014) #1


Superior Iron Man (2014-2015) #1


Timely Comics: Invincible Iron Man #1 (Timely Comics (2016))


Invincible Iron Man (2016-) #1

 こう何度も繰り返し仕切り直されてしまえば、既存ファンが不満を募らせるのみならず、新規参入者も#1から手に取って良いかわからなくなってしまうため、いよいよ百害あって一利なしとなる。
 昨年 SPIDER-MAN: HOMECOMING 公開時には流石にメインタイトルの AMAZING SPIDER-MAN 誌ではなく、新スピンオフ PETER PARKER, THE SPECTACULAR SPIDER-MAN 誌を開始することで乗り切ったが、やはりメインとスピンオフとでは集客力がだいぶ異なるし、スピンオフがやたらと増えるのはそれはそれで問題だ。

結論と今後の展望

 さて、以上が MCU がマーベル・コミックスに与えてしまった3つの大きな変化だ。正直、悪影響と言っても差し支えないだろう。
 公表されている売上に関する情報を見る限りでは今のところ大きなダメージを受けているようだが、このままではそれも今後どうなるかわかったものではない(この業界1位もヴァリアントカバーなどを利用した演出だという考察もあるが、ここでは脱線するため敢えて触れない)。

だが、読んで頂ければわかる通り、これらはどれも MCU が直接悪影響を及ぼしているわけではない。MCUから中々流れてこない新規読者を開拓するための試行錯誤が今のところ戦略的に失敗しているに過ぎないのであって、今後状況が改善する可能性は十分有り得るし、その予兆は既に現れている。

 まず何と言ってもディズニーがフォックスを買収したことは大きい。これにより X-men と Fantastic Four の権利問題が解消し、これらのキャラクターを MCU に加えることに対する障壁は(少なくともビジネス上は)なくなった。この動きに合わせ、マーベル・コミックでは今夏 FANTASTIC FOUR 誌が新シリーズとして復活することが発表された。 X-men 界隈も Wolverine や Jean Grey が復帰するなど再び盛り上がりを見せ始めている。


Phoenix Resurrection: The Return of Jean Grey

 また、マーベルのトップにファンとクリエイター双方から敏腕編集者として慕われる C. B. Cebulski が就任したことでユニバース全体の方向性も改善される見通しだ。
 折角 MCU がここまで盛り上がっているのに、原作のマーベルが大人の事情で燻っているのはあまりに勿体ない。
 マーベルには今後も業界最大手という座にふさわしい活躍を見せて欲しいと同時、ファンとしてそれを応援していきたい。
 


番外編: その頃DCでは

 さてさて、マーベルが上記のような状況にある中、ライバルである DC がまた面白い動きを見せてきた。
  DC は映像作品に対してかなりドライな印象で、映画が公開されてもどこ吹く風、ナンバリングもそのままなら派手なプッシュもあまりない。せいぜい巻末に広告を載せたり、過去作の合本を新版で出したりとかその程度だ。ドラマ放送に合わせて始まった BLACK LIGHTNING のミニシリーズもひっそりと始まった印象(これはこれでどうかと思うが)。

 そんな中、一大クロスオーバー・イベント DARK KNIGHTS: METAL の終了に伴って新シリーズ開始となる JUSTICE LEAGUE は興味深いことにメンバー編成を昨年公開された映画の面子ではなく、かつてのカートゥーン版に近い顔ぶれで開始するようだ。


Justice League Vol. 1


ジャスティス リーグ/知られざる街の危機 [DVD]

 現在まで根強いファンがいるカートゥーン版JLの、ありそうでなかったメンバー編成のコミックが吉と出るか凶と出るか、こちらも注視していきたい。