VISUAL BULLETS ー今日もアメコミ三昧ー

原書レビューを中心に、MCUからクリエイターのトリビアまでアメコミに関する様々な話題をお届け

MULTIPLE WARHEADS (IMAGE, 2013)

大人の冒険活劇!


Multiple Warheads: Alphabet To Infinity #1 (of 4)(キンドル分冊)

 塵埃と放射能と壊れた夢の匂いが漂う、第三次世界大戦後の未来。臓器密輸業で生計を立てる Sexica と、彼女の恋人でメカニック(ついでに狼男のペニスを移植したことで自らも狼男になってしまった) Nikoli は、それまで住んでいた街が落下した宇宙船により壊滅してしまったのを機に、新天地を求めて旅に出る。2人の行く先々で待ち受けるのは、不思議で人間味溢れる者達との出会いだった。
 一方、別の場所では Sing-Song なる凄腕暗殺者が、首が生え変わる貴族を狙って旅路に着く。


 元々グラフィティ作家であり、かつてはポルノ系コミックも手がけていたという異色のクリエイター Brandon Graham 。日本の漫画やヨーロッパのBDなどからも多大な影響を受けている彼は、ライターとしてもアーティストとしても他に類を見ない才覚の持ち主で、アメコミのメインであるスーパーヒーロー物にほぼノータッチながら数多くのファンを獲得している。
 今回ご紹介するのはそんな独特の地位を築き上げた彼の出世作
 個人的にも大好きなクリエイターの1人で、その宮崎駿村上春樹赤塚不二夫を足し合わせたような、無文化でジョークの利いた世界観には癖になるものがある。


 本作を読んでまず気付くのは、過剰なほどに散りばめられた、細かいネタの数々だろう。
地雷( Landemine )注意の看板に記された LAND MIND という標識、道路を走るカタツムリ( Escargot )型のトラック( Cargo )、それに明け方のベッドで仰向けに寝そべった Sexica が” Upside-dawn ”と上下逆さまのフキダシで言ってみたりととにかく至るところにシャレの利いた意匠が凝らされている。

 とりわけ街中の風景を描く大きなコマなんかでは、これでもかというほどネタが文字でも絵でも書き込まれている。

 こう書くといかにも煩雑な印象を受ける方もいるかもしれないが、彼の丸を基調とした画風ではネタが凝縮されたコマを見ても鬱陶しさはまるで感じられない。
シャレがオシャレに見える、物語性のある絵を可能にしているのはやはり Graham がライティングもアートも自ら担当しているからだろう。分担作業が大概のアメコミでは中々見ることのできない光景だ。

 勿論、本作の魅力はそういった小ネタだけではない。肝心のキャラクター達の描写も秀逸だ。自意識を持つ車 Royal Boiler に乗って珍道中を繰り広げる2人のダイアログはウィットに富んでいながらどこか情緒が滲む。狼男の夢に導かれてしまう Nikoli 。そんな彼が自分の前からいつか消えてしまうのではないかという Sexica 。2人のダイアログからは郷愁と哀愁が漂う。読んでいると自然に応援したくなるカップルである。

 他方、2人とは全然関係のない場所で首の生え変わるターゲットを求めて彷徨う暗殺者 Sing-Song の冒険も、こちらはこちらで小気味の良いアクションが繰り広げられてページがさくさく進む。

 どちらの物語もある程度の方向性を備えつつ、しかしその場その場で積み上げていくようなストーリーとなっており、次の展開が全く読めない。だから否が応にも期待が高まるのだ。

  Vol.1 と記されているものの長らく音沙汰がなかったために未完の完結を迎えたと思われていた本作(アメコミではよくあることですね、はい)だが、今年になって続編の単行本化が決定した。 Amazon を覗いてみると他にも彼の過去作を集めた単行本が続々と刊行されるようで。
間違いなく今後コミック界を担うことになる才能が、今年は大きく飛躍する年になるのかもしれない。


Multiple Warheads: Alphabet To Infinity #2 (of 4)(キンドル分冊)


Multiple Warheads: Alphabet To Infinity #3 (of 4)(キンドル分冊)


Multiple Warheads: Alphabet To Infinity #4 (of 4)(キンドル分冊)


Multiple Warheads: Down Fall(キンドル分冊)


The Complete Multiple Warheads 1(Amazon合本)