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SUPERGIRL BOOK ONE (DC, 1996-97)

 並び立たない善と悪。


Supergirl Book One

 ある日、長らく行方不明となっていた少女Linda Danverseは血塗れの姿で自宅アパートに帰ってくる。記憶が曖昧な中、次々と超人的能力を発揮する自身の肉体に困惑する彼女は、自分の中にカルト教団の毒牙にかかり死にかけているLindaとしての意識と、そんな彼女を捜しに駆けつけたSupergirlとしての意識が共存していることに気づく。だがやがて記憶が戻るにつれ、Lindaの思いもよらぬ過去が明らかとなり……。

 Supergirlと言えばSupermanと同じ惑星からやって来たいとこで……という皆がよく知る彼女の設定だが、実は特に1985年のCRISIS OF INFINITE EARTHSで死亡してから2004年にSUPERMAN/BATMAN誌で復活するまではこれが通じなかった。
 今回の作品はプラズマ体からなるSupergirlがカルト教団の毒牙にかかった少女と融合したという設定の、今では半ば黒歴史化しているSupergirlを描いたもの。

 ライターはPeter David。MarvelではINCREDIBLE HULKの黄金時代を築き上げたり、Spider-manの名エピソードTHE DEATH OF JEAN DeWOLFFを手がけたり。DCでもYOUNG JUSTICEを生み出すなど80年代から現在に至るまで数多くの名作を生み出している名匠。この人の手がける作品は基本的に外れがないので本作のようなしっちゃかめっちゃかな設定でもある程度安心して読める。
 メイン・アーティストのGary FrankはBATMAN: EARTH ONEなどで知られるブリテン系出身のアーティスト。カラーのせいも多少あるのだろうが、現在の彼のアートに見られる彫りの深さからくる渋味はややナリを潜めている。

 何だか得体の知れないSupergirlだが、流石Davidの手にかかれば手堅い出来。本作のテーマはスーパーヒーローとして”善”を体現するSupergirlと、カルトにのめり込んで人を手にかけてしまったことまであるLinda Danverse — この2人の融合からくるアンビバレンスだろう。
 この手の二律背反は頻繁に使われる手で、SUPERIOR SPIDER-MANからSHADE the CHANGING GIRLまで枚挙に暇がない。
 一見並び立つように見えて実は全く釣り合っていない善と悪という価値観だが、特にスーパーヒーロー物では前者に軍配が上がることは火を見るより明らかなので、実はこれらのせめぎ合いだけではほとんどドラマは生まれない。むしろこういった作品は悪を糧にどう善が新たな段階に上り詰めるかという成長譚であり、本作もその体を成している。

 ただまあ本巻はまだ最初の1巻ということもあり、まずはキャラクターを活かすためにあれこれ動かしているという印象が否めず、二律背反の融合と克服というテーマもまだ偶然に助けられている。DavidがLinda/Supergirlをどのように成長させていくかは続刊で描かれていくことになりそうだ。