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MIRACLEMAN BOOK THREE: OLYMPUS (MARVEL, 2014-15, )

 Alan Mooreの作品群を理解するためのミッシング・ピース。


Miracleman #11 (Miracleman: Parental Advisory Edition)

 1987年、かつての英国。荘厳な神殿の奥に座する神は銀のページからなる1冊の書に文字を焼き付けていく。自分と人間との間に生まれた子のこと、女神との出会い、新たな文明社会からの歓迎、そしてかつてない災厄……。
 超人が世界に、そして人類にもたらすものとは。

 長らくお蔵入りしていたThe Original WriterことAlan Mooreの隠れた初期代表作、その第3集にして最終巻。一応本巻の後もシリーズとしてはNeil GaimanとBill Willinghamの手により続きが描かれていくことになるものの、ひとまずMooreのサーガはここで終了。GaimanとWillinghamによる続刊も長らく停滞していることだしこのまま3巻までで終わらせていいんじゃないかと思わないでもない。本巻で作品に終止符は打たれたと個人的には思うので私自身続刊は読んでませんわ。

 さて、本作はAlan Mooreというライターの良い部分も悪い部分もこれでもかというくらい詰め込んだ結晶のような作品だ。
 細かいところで言えば彼がWRITING FOR COMICSにおいてやり過ぎだと自戒していた、比喩を多用し情感たっぷりに表現したセンテンス。各章の最初と最後に挿入されるMiraclemanの述懐はこれが他に類を見ないほど極まっており、英語力がないと中々きついかもしれない代わり、わかると物凄く心に沁みる。特に終盤「OH, EARTH, LOOK UP.」というモノローグと共にMiracleman達が暮らすオリンポスの全貌が見開き一杯に描かれる場面は身震いさえ覚える白眉の出来。本作が神話として1つの完成に至ったことを読者に知らしめる。

 さらにもっと大きな視点から本作を俯瞰してみると、Miracleman達による社会機構の解体と新世界秩序の確立へ至るまでの変遷や、Warpsmithsらの文化と融合し新たな局面に突入した人類の文明などはMooreの思い描く”理想郷”のヴィジョンを(必ずしも全て肯定的にではないにせよ)反映しているものと思われる。
 誰もが自らの肉体を自由に作り変えることができたり、かつて狂人と扱われていた者達がある種のアイドルとして扱われるようになったり……。
 この”理想郷”のヴィジョンは、Kid Miraclemanに破壊され尽くしたロンドンの凄惨な光景も含めて、ある意味V FOR VENDETTAにおいてVが思い描いていた「解放された世界」であると同時にWATCHMENで世界中の政府がDr. Manhattanに対して抱いて恐怖の実現でもある。本作を読むことで上記のようなMooreによる作品群に対する理解が深まることは間違いないだろう。

 今でこそすっかりスーパーヒーロー物からは距離を置いてしまっているMooreだが、初期作には彼の”超人”という存在に絡めて世界の歪みをあぶり出し、新たな秩序の形を示そうという試みがあの手この手で行われていた。1作1作の完成度が高いことはもちろんのこと、これらを1通り読んでくるもので初めて見えてくるものもあるという点において、本作はAlan Mooreというライターを理解する上で重要なピースであることは勿論のこと。本作から影響を受けた数多くのライターが現在に至るまで彼の超人像を模倣しようと努めていることを考えると、コミック界全体にとっても重要な位置を占めることは間違いないだろう。


Miracleman #12 (Miracleman: Parental Advisory Edition)


Miracleman #13 (Miracleman: Parental Advisory Edition)


Miracleman #14 (Miracleman: Parental Advisory Edition)


Miracleman #15 (Miracleman: Parental Advisory Edition)


Miracleman #16 (Miracleman: Parental Advisory Edition)



Miracleman Book Three: Olympus