VISUAL BULLETS ー今日もアメコミ三昧ー

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MIRACLEMAN VOL.2: THE RED KING SYNDROME (MARVEL, 1982 - , #5 - 10)

さーて、ここからが本番ですよー。


Miracleman #5 (Miracleman: Parental Advisory Edition)

 冷戦下の兵器開発競争において核に換わる切り札として軍部に生み出された偽りのスーパーヒーロー Miracleman 。自らの半生がその開発責任者であり宿敵として何度も夢の中に登場した Gargunza に弄ばれていたものだと知り憤る彼だがそんな矢先、出産を控えていた妻のLizが何者かによって拐かされてしまう。やがて僅かな手がかりを頼りに Gargunza が南米に未だ潜伏していることを知った彼は、英国エージェントの Evelyn Cream と共にアマゾンの奥地へ踏み入っていく。その頃、動揺するLizの前に姿を現した Gargunza は恍惚とした眼差しを母胎へ向けていた……。

 前回の記事でも記した通り、第1巻は The Original Writer こと Alan Moore が物語を作りやすくするための地ならし。その終盤において Mike Moran こと Miracleman 誕生の経緯が判明すると同時に今までの設定が全てひっくり返され、本巻からが Moore の本領発揮といったところ。超人という存在に対する彼なりの哲学的分析は勿論のこと、それに絡めて逆に人種差別問題などについての社会批評なんかがストーリーの中に溶け込んでおり、彼が Miracleman というフィルターを通してページの外の世界を語ろうとしている姿勢が窺える。新生児が出てくる女性の局部を克明に描写したことでショッキングとも言われる Liz の出産シーンについても、出版業界の表現規制などに対する彼なりの挑戦と考えることができるかも。

  Moore の紡ぐ物語にはいつも現実世界で起こっている様々な事象を背景とした、新たな視点や発想の導入がある。 V FOR VENDETTA における George Orwell の『 1984 』をアップデートしたような管理社会は21世紀の現代になって実現されつつあるし、 WATCHMEN や本作で描かれる”超人”の存在はそのまま核兵器のアナロジーとして読むことができる。彼の SWAMP THING のランもエコロジーが大きなバックグラウンドとしてあることは見るも明らかだ。しかし、ただフィクションを通して現実社会の批評を行うだけであれば Moore 以外にもそれを行ったクリエイターは数多く存在する。
 
  Moore が他より秀でている点には、そういった直近的な話題を更に普遍的なテーマに落とし込んでいるところにあると私は思う。本巻から例を挙げるなら人類(というか Gargunza )の生み出した Miracleman が作り主の予想を凌駕し、逆に意図せぬ影響を及ぼしていく様子は兵器開発に留まらず発明から子育てまでのあらゆる「造物主⇔被造物体」の関係について同様のことが言えるだろう(最近で言えば人工知能と人間の関係にも適用可能だ)。このテーマは Miracleman と Liz の間に生まれた娘 Winter がみるみる超人的能力を発揮していく様子でも念を押して描かれる。

  Moore が各作品で描いた設定やテーマを後に続く作品が上っ面だけ拝借することは簡単だ。しかし、彼がしたようにもう一掘りしない限り彼の影響下から抜けきることはできないだろう。


Miracleman #6 (Miracleman: Parental Advisory Edition)


Miracleman #7 (Miracleman: Parental Advisory Edition)


Miracleman #8 (Miracleman: Parental Advisory Edition)


Miracleman #9 (Miracleman: Parental Advisory Edition)


Miracleman #10 (Miracleman: Parental Advisory Edition)


Miracleman Book Two: The Red King Syndrome