VISUAL BULLETS

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DAREDEVIL: THE MAN WITHOUT FEAR (MARVEL, 1993 - 94, #1-5)

 見えないからこそ、見通せるものもある。


Daredevil: The Man Without Fear: Man Without Fear Premiere (Daredevil: The Man Without Fear (1993-1994))

  NY でも犯罪の多いヘルズ・キッチンに住んでいる少年 Matt Murdock は、落ち目のボクサーである父に暴力を固く禁じられ、学業に専念する毎日を送っていた。だがある日、目の不自由な1人の男性が車に引かれかけていたところを助けた彼はその拍子で自分の目に放射性廃棄物を浴びてしまう。光を失った代わりに残りの感覚が超人的なレベルに高められた彼はやがて、尊敬していた父が地元ギャングの手先となっていることを知る。そしてある晩、ボクシングの試合で八百長を迫られるもそれを拒否した父が殺害されたことを知った Matt は犯人に復讐すべくその後を追いかけ始めるが……。

  Marvel の真っ赤なヴィジランテ Daredevil 。彼の名エピソードとして必ず挙げられるのがハードボイルドの匠 Frank Millar のライティングによる BORN AGAIN と本作。多分初めて DD を読むならオリジンが描かれるこちらを先に読んでおく方が良いんじゃないかと(私は BORN AGAIN を先に読んじゃったけど)。
 内容は Daredevil 版 YEAR ONE ってとこです、うん。幼少時に自分を決定づけたイベントを積み重ねて成長を描き、やがてヴィジランテとして正式に独り立ちするところにまで至るという展開は BATMAN: YEAR ONE そのもの。そう考えると Daredevil って Marvel ユニバースにおける闇の騎士って考え方もできるわけだ。そういやどっちも耳立ててるわな。

 アーティストはかつて Marvel で Spider-man を始め数多くのヒーロー・アートを手がけ、今は DC に活躍の場を移している John Romita Jr. 。やや太めの線で重厚ながらキレのあるアクションを描き出す彼のアートはいつ見ても高いレベルで安定している。今のようなデジタル作画と異なり、手書き感のあるタッチの頃の彼の絵は、とくに Elektra の描写なんかで違いがはっきりするものかと思われる。
 
 本作は Daredevil の物語というよりかはその赤いマスクの下にいる Matt Murdock の物語と言った方が良い。往々にしてスーパーヒーローコミックというのはマスクと衣装を身に着けての活躍があってなんぼなもののため、やもするとその下に隠れている人物に関しては軽視されてしまいがちだ。
 そんな中、既に DD を描けることを過去に証明済みな Millar が改めて Matt Murdock という人物と向き合い、彼の基盤を築き上げたということは、単に名作を生み出したということだけではなく、後に続く数多くのクリエイター達に1つの拠り所をもたらしたという意味で非常に大きな意義を持つ。