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AETHERIC MECHANICS (AVATAR, 2008)

 世界を変えろ。


Aetheric Mechanics

 1907年、ルリタニアと戦時下にある英国。戦場から帰還した元軍医の Richard Watcham は、友人であり同居人でもあるアマチュア探偵 Sax Raker のいる Dilke 街へ戻ってくる。折しも大衆の目の前で姿を消す何者かの手で行われる殺人事件の捜査に当たっていた Raker は、新たな被害者が出たと聞くや早 速Watcham とともに現場へ繰り出す。
 不可解な科学のはびこる架空のロンドンで行われる奇妙な殺人事件、その驚くべき真相とは……?

  Warren Ellis が送る SF ミステリー。 Aetheric Mechanics という新分野の科学で宇宙進出まで果たしてしまった架空の英国はロンドンを舞台に、 Sherlock Holmes をモチーフとした探偵がとある殺人事件の捜査を通して世界の根幹に関わる秘密へ迫るといった内容で、” Graphic Novel ”ではなく” Graphic Novella ”という僅か45ページ前後の薄い合本の体裁を取っている。短いながらもかなり読み応えのある逸品。
 正直に言うと Ellis 以外のクリエイター陣についてはどちらも初めて見る名前だったが、モノクロページでありながら過不足のないアートからは少しも違和感を受けず、ペンシルの Glanluca Pagliarani にしろインクの Chris Dreier にしろかなりレベルの高いアーティスト同士であることを伺わせる。

  Ellis は世界を変えることに全く躊躇のない数少ないクリエイターだ。一般的なライターは往々にしてフィクションの世界と謂えど、ともあれば現状保持に走るというか、取り返しのつかないような展開を避ける傾向がある。
 とりわけスーパーヒーロー系のストーリーともなると” THIS CHANGES EVERYTHING ”なんて文句でメガクロスオーバーイベントを喧伝するどこぞの大出版社が、なのに数年経ってみればほとんどイベント前と変わらない状態になっているようなことなんてのも日常茶飯事だ。

 しかしそんな中、 Ellis はそういった変化を世界にもたらすことへ躊躇いがない。それどころかむしろ積極的にもたらそうとする傾向さえある。そのことは例えば彼の代表作である AUTHORITY などを見てもわかるし、本作のラストについても同様だ。
 やもすればこうした態度は自ら作り出した世界観を顧みない無責任さを意味すると勘違いされてしまう可能性もあるが、それは違う。むしろ彼はこういった取り返しのつかない変化を積極的に取り入れることにより作品世界のポテンシャルを引き出そうとしているのだ。そしてそこでのシミュレーションを通してその影響をページの外にまで広げようとしている。

 こうした態度でフィクションに果敢に挑むクリエイターがもっとたくさんいても良いと思うのは私だけだろうか?