VISUAL BULLETS

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THE UNBEATABLE SQUIRREL GIRL & THE GREAT LAKE AVENGERS (Marvel, 2016)

 スーパーヒーロー物での笑いとは。


原書版合本(Amazon): The Unbeatable Squirrel Girl & the Great Lakes Avengers

 絶対に死ぬことのない Mr. Immortal 、体型を自由に変えることのできる Big Bertha 、平べったい体を自由自在に伸び縮みさせられる Flatman 、それに体が隣の部屋(比喩とかではなく文字通りの意味で)への抜け道となっている Doorman — そんな一風変わった面々からなる三流スーパーヒーローチーム Great Lake Avengers ( Avengers の名前は勝手に拝借)。彼らは自分達の能力を正義のために使おうとするものの、 NY から遠く離れたミルウォーキーに拠点を置く彼らの周囲にトラブルの火種などそうそう見当たらず。だがある日 Maelstrom 率いるヴィランの集団に遭遇した彼らは逆に返り討ちに遭い、メンバーの1人が犠牲になってしまう。残された面々は瓦解していくチームを何とか保とうと NY へ新メンバーをリクルートしに赴く。そんな彼らの前に姿を現したのは、リスの身体能力を有す少女 Squirrel Girl !

 「次に来るのはこの娘!」との呼び声も高い Squirrel Girl と、彼女が所属する(していた)チーム Great Lake Avengers との活躍を諸々詰め合わせた合本。 SG の初登場から Deadpool との共演なんてのまで色々含まれているけれど、ここでは Dan Slott をメインライターとした GLA #1-4、それにその続編である GLX-MAS SPECIAL を中心に扱うことにする。今でこそ AMAZING SPIDER-MAN のライターとして知られている Slott だけれど、元々はこういった変化球的なコメディを中心に手がけるライターとして有名で、本作もそんな彼の代表作の1つと言える。
 率直な感想として、大筋としてはそれなりに面白いことは認めるものの、ジョークに関してはちょっと残念なところがあったかなといったところ。

 そもそもスーパーヒーローとコメディってかなり相性が悪いジャンルの組み合わせ。何故ならヒーローとはキャラクターであると同時にシンボルでもあり、そこに笑える隙を盛り込むことはそのシンボル性を損なう行為でもあるから。更にコメディ”作品”ともなるとキャラクター自身にその隙を指摘させなければならないため、ジョークに自虐的なものが多くなることはある意味当然であり、 GLA に対して NY に拠点を置く Marvel のヒーロー達が尊大で高慢ちきな連中として描かれているのはその一例であると言えるだろう(ヒーロー達の間で生死が回転ドアになっていることをジョークの種にするようなのもこの1つ)。無論、これは本作にのみ言えることではなく、例えば Deadpool などメタ的な語り部の登場するようなスーパーヒーロー・コメディにもいえることだ。

 こういった業界ネタ的なシニカルな笑いを否定するつもりはないものの、スーパーヒーローを伝統芸能として考えると、歌舞伎においてその独特の立ち居振る舞いを揶揄したり、ジャズにおいてその即興性を軽んじたりしないように、こういった笑いは必ずしも建設的であるとは言い難い。

 そんなわけで本作に戻って感想をまとめると、スーパーヒーローとしてはそこそこ。コメディとしてはちと残念。両方掛け合わせるとむしろ物足りないかといった印象。

 今後はこういう自虐的な笑いから一歩踏み出せる作品の到来が読んでみたいかも。