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BATMAN AND ROBIN: REVENGE OF THE RED HOOD (DC, 2009-10, #4-6)

 醜いものほど — 。


本記事で収録した内容含め原書合本版(Amazon): Batman and Robin, Vol. 1: Batman Reborn (Batman by Grant Morrison series)

 再び Gotham での活動を開始した Batman & Robin 。だがそんな彼らに早くも模倣犯が出現する。本家と異なり犯罪者を次々と血祭りへ上げていくこの Red Hood & Scarlet と名乗る2人組は一体何者なのか?新生ダイナミック・デュオは捜査に乗り出す。
 一方、裏社会もこの脅威に対抗すべく、1人の凶悪な暗殺者を南米から呼び寄せる……。

 はい、引き続き Morrison サーガは BATMAN AND ROBIN シリーズ、その第2章となる本作は今やタイトルまで獲得し最早その正体など秘密でも何でもない Red Hood a.k.a Jason Todd が相手となります。
 改めて考えてみると私、 Todd が Robin だった時代の話ってほとんど読んだことないんですよね。そんなわけで彼に対する思い入れがほぼない私にとって彼が復活しようが新たなヴィジランテになろうが屁でもないわけでして。むしろ注目したのは前章で Professor Pyg に Dollotron のマスクをはめられながら何らかの理由で自意識を保つ Scarlet と、今回初登場のボスキャラ(?) Flamingo さんだった次第。
 インパクトという点であれば、かつて南米で正義のために戦っていたのがギャングに捕まりロボトミー手術を施された結果、派手なピンクの衣装に身を包み、人の顔から剥いだ皮を好んで食べるサイコ・キラーになってしまったという Flamingo がそのヴィジュアル、バックグラウンド共に最強。ほんと、こういうぶっ飛んだキャラ作らせると Morrison の右に出る者はいません。Pyg同様、彼もこの話以降は大したスポットライトを浴びず脇役に追い遣られてしまったのが何とも残念なところなので、そのうち誰かにしっかり描いて欲しい。
 ただそうは言うものの個人的に後々まで残るのは Scarlet の方。前章のラストで正気を失った父を殺害し、本章で Red Hood の過激な犯罪駆除の手伝いをするようになった彼女というのが、まずちょっと 『LEON』 の Natalie Portman なんかを連想させて心惹かれる。
 加えて、顔に癒着してしまった Dollotron の肉仮面を外したいと思いつつも、そうすれば一緒に自らの顔も剥がれ落ちてしまうのではないかという恐怖からそうすることができない彼女が何ともいじらしい。
 人は時として完璧なものよりも、どこかに欠陥を抱えたものの中に見つける美の方を重宝することがある。銀幕で笑顔を振りまく美女よりも、檻の中で蠢く奇形を愛おしく思ってしまうように。時として毒は強力であればあるほど、甘さを際立たせるものだ。
 Scarletについても、彼女の醜い顔がそのまだ柔な部分を残す言動と相まって、どこかエロティックで読む者の苛虐心をくすぐる。
 ストーリー終盤、 Flamingo から受けた傷により彼女の顔から Dollotron の仮面が外れる時、私達読者はそこにその素顔の美醜を想像したりはしない。いつの間にか自らの中に生じていた幻想を当てはめ、この悲劇のヒロインに幸あれとひたすら願う。