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THE AVENGERS: THE KORVAC SAGA (Marvel, 1978, #167, 168, 170-177)

 スーパーヒーロー作品としての責任を放棄した問題作。


原書合本版(Amazon): Avengers: The Korvac Saga (Avengers (1963-1996))

 大気圏外に突如出現した巨大な衛星建造物。調査に訪れた Ironman 率いる Avengers は、そこで30世紀の未来からタイム・トラベルしてきた Guardians of the Galaxy の面々と出会う。未来で彼らに敗れた後この時代へ逃げてきた強敵 Korvac から少年時代の Vance Astro ( GotG のリーダーで元は20世紀の地球人宇宙飛行士)を守るべくやって来たという彼らに Avengers は協力の手を差し伸べる。それから間もなく Korvac の存在を感知した Starhawk は閑静な住宅に住む1人の男性のもとを訪ねるが……。一方、 Avengers はメンバーが次々と消失するという不可思議な現象に見舞われる。

  Save the Cat というものをご存知だろうか。 Blake Snyder というアメリカの脚本家が提唱した映画をヒットさせるためのストーリー作成メソッドで、現在多くのハリウッド・ブロックバスターがこれを採用していると言われている。端的にどんなものかを言えば、要はどんな主人公でも観客に共感可能なキャラクターにしろという理論だ。もう少し具体的に言えば「猫を救う( Save the Cat )ようなシーンを挿入しろ」ということ。
 映画に限らずどんなフィクションで主役をキャラクターとして立てるのに共感可能な人物であることは重要だが、とりわけスーパーヒーロー作品においてこれはほぼ必須条件と言っても良い。でなければ1人の怪人を5人で叩きのめす戦隊ヒーローはただのいじめっ子集団だ。アンパンマンなど「何よ腕っ節が強いからって。一度くらいばいきんまんに負けてあげたらどう?」などとクレームが入って番組が成り立たなくなるだろう。 MCU が現実にいれば絶対鼻につくであろう Tony Stark のような人物さえ観客から愛されるスーパーヒーローに仕立て上げたのはかなり評価に値する。

 ただし、これは通常の作品に関しての話だ。 Avengers のように長い歴史のあるアメコミシリーズだと少々事情が異なってくる。1963年に#1が刊行されてから50年以上。既に Stan Lee や Jack Kirby をはじめとした歴代のクリエイターが「共感可能なキャラクター」としての彼らのイメージを構築してくれているので、今となっては新たな物語を作るに当たって共感可能な人物像を確立するシーンを挿入することは必ずしも必要ではない。
 
 本作はメインライターの Jim Shooter がそこに胡座をかいて思考停止してしまった作品であるといえる。
 正直、 SECRET WARS のライターでもある彼が手がけていると知った時点で痴話喧嘩とカオス展開はある程度予想済み。なので、リーダーの座を Iron Man に奪われた Captain America がことある毎に突っかかったり、どうでもいい理由で政府からの援助を断ち切られた Avengers が公共バスから乗客たちを追い出して出動するといった無駄なシーンの数々を目にしたところでさして驚かず(げんなりしたかはまた別の問題だけど)。

 だから問題なのはそういうチマチマしたところではなく、肝心の本筋。
 今回の敵 Korvac は、30世紀の未来で GotG の宿敵 Badoon に改造され生体コンピュータになってしまったという御仁。当初ビデオデッキに人間の上半身が生えたような姿をしていた彼はだが、敗走の末 Galactus の宇宙要塞に到達。そこで神に匹敵する力とアメリカン・ナイスガイのボディを手に入れた彼は新たに”マイケル”と名乗り、ファッション・ショーから攫ってきた奥さん(実はCollectorの娘でスパイ)とおままごとしつつ、世界を良い方向へ導こうと画策。 

 ところがそんな彼を我らがヒーロー達が強襲。
 
 まあ、ここまではよくある展開。どうせ世界をより良い方向に云々と言いながら蓋を空けてみればとんでもない暴君で、という展開なんだろ?
 ……と思いきや。
 全宇宙を超越的存在 Eternity の支配から開放しようとする Korvac 。そんな彼を「敵だから」というただそれだけの理由だけで襲いかかる Avengers と Guardians 。 Korvac の計画の全容を知った Moondragon は彼の計画に誤謬がなく、今回ばかりは Avengers が悪いと明言し。結局 Korvac は1人で死亡、 SECRET WARS ばりのデウス・エクス・マキナでヒーロー達は蘇り、記憶改竄で Korvac は悪人だったと洗脳されて幕。

 いや、ひでえひでえ。というか「私達が悪人でした」ってヒーローに言わせてどうすんの。せめて言い訳くらいさせなよ。 HOUSE OF M でもまだ有耶無耶にする努力はしてたよ。

「実のところ世界は暴君に支配されていて、それに立ち向かおうとした Korvac 君は Avengers という無知な秘密警察に襲撃された上、死んだら汚名を着せられちゃった」という、善の象徴として認知されているのをいいことにやりたい放題な Avengers の清々しいまでの偽善者っぷりが見どころな本作。名作と謳われるのは他に類を見ない”テーマとしてのスーパーヒーロー”の敗北宣言であるが故か。

 あ、 George Perez の描く Wonder Man と Thor は最高に格好良いです。


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