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PUNISHER: KITCHEN IRISH (Marvel, 2004, #7-12)

 自分にとっては最大の関心事でも、他の人にとってはどうでもいいこと。
 よくある話。


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 ヘルズ・キッチンのとあるダイナーを訪れていたFrank Castle a.k.a Punisherは、だが偶然にもその向かいに位置するアイリッシュ・パブを狙った爆破事件に遭遇する。犯行の手口がIRA(Irish Republican Army)のものに似ていると知ったFrankは地元のアイルランド系ギャングのボスに狙いを定めるも、相手は彼の目の前で何者かに拐かされてしまう。旧知の仲であるM.I.6.の者からアイリッシュ・ギャング達の間で不穏な動きがあると聞かされるが……。

 前のアークで過去と完全に決別したPunisher。ここからが本格始動 — とは言うものの、今回の話で中心となっているのはどちらかと言えばヘルズ・キッチンに拠点を構えていたり、”ある目的”のためにここへやってきたアイルランド系ギャング達。彼らの間で起こる三すくみ四すくみの抗争劇が今回のメインディッシュであり、Frank Castleもあちこちかき回しはするものの、どちらかというとサブキャラに徹している感じ。
 それでも、スーパーヒーローが四方八方飛び回っている世界でIRAみたいな社会問題を扱うことができるのはカラフルなコスチュームの世界と硝煙臭いジャケットの世界とを自由に行き来できるPunisherならではといったところか。
 あ、ヘルズ・キッチンが舞台となるもののかの赤鬼さんは出てきません。悪しからず。

 個人的な印象としては爆破の被害に関する描写が露骨だったり顔面の皮膚がない男が出てきたりと、これまでより多少グロ度がアップしているように思えたので、そういうのが苦手な方は要注意すべきかと(Punisherを読んでてグロも何もないか)。PREACHERでArsefaceを世に送り出したGarth Ennisが少しずつその方向へギアチェンしているのがよくわかります。
 
 今回の話は俗に過激派と呼ばれる者達、ひいては何らかの政治的社会的活動に従事している者達に対するEnnisの皮肉らしきものを感じた。
 自分にとって命を賭するほどの問題も大多数にとっては瑣末事なんてのはよくある話。そういう際、自分が熱を入れれば入れるほど周囲からの視線は冷ややかになり、状況は動かなくなっていく(最近の国内外の政治とか見てるとホントそう思います……)。血気盛んなIRAの若者に対するM.I.6.からの説教からは「結局、問題を悪化させているのはあくせく動いている自分なのだ」という意図が読み取れた。
 自分が当事者でないからといって無関心になることは決して褒められたことではない。しかし、時には一歩退いて自分のやっていることを冷静に見つめ直すことも大切だ。
 誰も気にしなくなってからでは遅すぎる。


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