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SWAMP THING Vol.1: RAISE THEM BONES (DC, 2011-12)

 前々から手に入れようと思いつつ中々手に取る機会がなかった本作をようやく入手。期待を裏切らない、期待以上の極上ホラー。


原書合本版(画像のため旧版。新装版は下に掲載)(Amazon): Swamp Thing: Raise Them Bones (The New 52) v. 1

 優秀な植物学者だったAlec Hollandは実験中の事故により死亡したものの、特殊な薬を浴びたことで全身を緑に覆われた怪物Swamp Thingとして蘇った — と、誰もが信じていた。
 だが、実のところ怪物は自身をAlec Hollandだと信じ込んでいた全く別の存在であり、またAlec本人もただ昏睡状態で眠っていたに過ぎなかった。怪物がいなくなると共に目を覚ました彼はその奇妙な記憶を封印しようと身を潜めていたが、怪物だった頃の奇妙な体験の数々、そしてそれを共に乗り越えた”妻”の記憶に悩まされる。やがて各地で大量の動物が一斉に死亡するという事件が発生するとAlecの周囲では様々な異変が起こるようになり……。

 メインのクリエイターはライターにBATMANでお馴染みのScott Snyder、アーティストにWONDER WOMAN: EARTH-ONEのYanick PaqutteとMARVEL KNIGHTS: SPIDER-MANのMarco Rudy。個人的には誰も彼も大好きなクリエイター陣なのでこの時点で相当満足。特にMarco RudyはMK:SM以来、他の作品も手に入れたいと常々思っていながら中々巡り会えなかったので本作で彼の名前を見つけることができた時はひとしお嬉しかった。Paquetteのアートにしても文句なしの上手さ。コンビニの襲撃シーンやAlecの変身シーンなどはとりわけ見ごたえがあり、時間をかけてゆっくりと眺めたいほど。
 また、カラーには売れっ子Nathan Fairbairnが参加。MarvelやDCで数多くの作品を手がけている他、個人的にはNAMELESSでの仕事が印象に残っている。極彩色でもテカテカしていない引き締まった色遣いが本作にマッチしている。
 
 つい最近のKID ETERNITYの記事でも書いたかもしれないが、SWAMP THINGのようにキャラクターが物語の軸であると同時に焦点にもなっているホラーというのは案外DCやMarvelでしか見ることができない。大抵のホラーは印象的なキャラクターが軸にはなっていてもスポットライトはその被害者の方を向いていたり、異形となった者が主人公でも状況や能力といった別の軸に振り回されるパターンだ。そんな怪物が主人公としてアクティブに動き回る展開の代表的なものが過去のSWAMP THINGといえるだろう。
 そう、過去の。
 実は本巻だと皆のよく知るSwamp Thingもほとんど出番がなければ、Alecについてもそのおぞましい記憶と呪われた運命に終始振り回されている形。
 これは後退なのか?
 違う。
 これはむしろ異形が物語の”軸”として”焦点”としてこれまでにないうねりを生み出すために必要な助走であり加速だ。ラストシーンにようやく登場するSwamp Thingの描写には、やがて訪れる全力疾走の片鱗が感じられる。
 助走と謂えど本作でクリエイター達は一切手を抜いてはいない。凄まじい勢いで昇華する物語が今後どのように飛翔するのか大いに期待したい。


新装版原書合本(Amazon): Swamp Thing Vol. 1: Raise Them Bones (The New 52)


本クリエイター陣によるランを全て収録したハードカバー版合本(Amazon): Swamp Thing By Scott Snyder Deluxe Edition (The New 52)