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GREEN ARROW: THE LONGBOW HUNTERS (DC, 1987)

 狩人が狙うのは獲物だけじゃない — 時として狩人を狙う狩人もいる。


原書版合本(楽天)(Amazonは下に掲載): GREEN ARROW:THE LONGBOW HUNTER(P) [ MIKE GRELL ]

 恋人 Dinah Lance a.k.a Black Canary と共にシアトルへ移り心機一転を図る Green Arrow こと Oliver Queen — 弓矢に関して抜群の腕前を誇る彼だが、最近は仕掛け矢の使い過ぎや加齢による衰えで実力の衰えを感じずにはいられなくなっていた。
 同じ頃、街では女性ばかりを狙う切り裂き魔事件が発生、被害者の数は既に20人に達しようとしていた。 Oliver がこの切り裂き魔を追う一方、 Dinah は別に麻薬の密売を捜査する。だが2つの事件は徐々に繋がり始め、やがて事件の裏で暗躍する1人の長弓使いが浮上する……。

 スーパーヒーローの活躍を描きつつ、1つのサスペンス・ドラマとしても非常に上質な作品。現在放映されている実写ドラマ ARROW の出演者らも役作りの上で本作を読んだとか読まないとか。 Green Arrow のファンの間では Batman によっての YEAR ONE とか LONG HALOWEEN 並の金字塔としての扱いを受けている。そういや GA の名エピソードって他に ARCHER’S QUEST 位しか思いつかないわ。
 
 一見何の関連もない人物達を次々と暗殺する Oliver を凌ぐほどの長弓使い Shado (つまり”射道”)が登場する本作のライター兼アーティストは Mike Grell 。主に DC で活躍する人物で、本作をきっかけに担当することになった後の GA シリーズは現在でもベストと謳われている。その他に参加しているのはアシスタントに Lurene Haines 、カラーに Julia Lacquement 、それにレターで Ken Bruzenak という少数精鋭。正直言うと Mike Grell 以外は初めて聞く名前ばかりだが作品を見る限りではかなりレベルが高いことが窺える。特に Lackqument のカラーは Grell のアートととてもマッチしていると同時にとても丁寧に塗り上げており、本作の舞台となる80年代後半のシアトルに情緒深さを醸し出させるのに一役買っている。

 GA だけではないが、古くから継続して活躍し続けているヒーローほどその長い歴史の中で余分な要素が付き過ぎて身動きが取れなくなることがままある(最近だと Marvel が全体的な傾向としてこのデッドロック状態になりつつあるような気がしなくもない)。そういった時にキャラクターを核だけ残して余分な贅肉を削ぎ落とすことはクリエイターと読者との両方にとってその魅力を再発見させると同時に新機軸をもたらすための有効な手段の1つと言える。
 本作もまたそんなダイエット作品であり、ここでの GA は人間関係も Dinah との恋愛関係のみなら、使用するのも通常の弓矢のみというストイックさだ。ボクサーグロブ・アローを使う彼もそれはそれで”スーパーヒーロー”としてなら魅力的なものの(上記 ARCHER’S QUEST なんかはむしろそういうのに好意的なので本作と対比してみても面白いかも)、”狩人”としての彼を見出したいのであれば間違いなく本作を読むべきだろう。


原書合本版(Amazon): Green Arrow: The Longbow Hunter